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83 混乱の極み

「ごめんって……俺、久し振りに会えて嬉しいんだよ。そんな嫌そうな顔しないでさ、ちょっと付き合わね? 俺に話、させてよ」  シュンとした晋哉の顔に、しょうがないな……と思い、少し付き合うことにした。その店のカードはどうしたんだと聞かれたから知り合いに貰ったと話す。俺が迷っていた場所からすぐの所に目的の店があり、晋哉と一緒に店に入った。  店はこぢんまりとしていてバーカウンターの奥にマスターらしき人物が一人。マスターは俺らの姿を見るなり笑顔で手を振る。 「もしかして晋哉、この店よく来るのか?」 「ん? そうだな、たまにな……」  晋哉はカウンターではなく、奥のテーブルに進んで座り、俺に斜に座れと促してくるのでそれに従い腰を下ろした。 「久し振りだな、高校卒業以来……だよな?」  何となく恐る恐る俺の顔色を伺っているように見える。そうだ、高校の卒業以来……正確には卒業式よりずっと前から晋哉とは顔も合わさず話すらしていない。少しはこいつにも思うところがあるのだろうか。 「元気、だった?」 「ああ……まあな」  会話も弾まず、話題もない。今更友達だなんて思えないし、こうやって何もなかったかのように俺を誘う晋哉の意図が全然わからない。俺なんかと飲んでいて楽しいのだろうか。  沈黙が続き、グラスだけが空いていく。時折俺たちと年の近そうな店員が気を利かせてか話しかけてきて和みはするものの、俺としては早めにこの場から去りたかった。 「なあ……今一人? あの時の彼氏はまだ?」 「………… 」  唐突に聞かれ、返事に戸惑う。  優吾さんの事…… 正直、話したくなかった。 「とっくに別れたよ……だから何?」  我ながら棘のある言い方。俺は気まずさもあり外方を向いていたから晋哉がどんな顔をして聞いていたかなんてわからなかった。 「そっか! それから? それから恋人は? 今はどうしてんだ?」  急に声のトーンが明るくなり、イラッとして晋哉の顔を見る。すると「やっと俺の顔見てくれた」と嬉しそうに笑い、俺の手を握った。 「……なんだよ触んな!」  慌てて手を引っ込めると晋哉は「ごめんごめん」と悪びれずに笑う。 「そんな怒るなよ。嬉しいんだ俺、また公敬に会えたのも奇跡だと思ってるし、今フリーなんだろ? こんなラッキーなことはねえよ」  興奮したように話す晋哉を、俺は理解できずにただ黙って見ていた。 「この店に来たってことはさ、お前も出会い求めてんだろ? 寝るだけの相手でもいいし、俺は公敬相手ならちゃんと付き合ってやってもいいよ」  俺はこいつが何を言っているのか全くわからなかった。  は? 寝るだけの相手? 付き合ってやってもいい? そもそも晋哉はノンケじゃないのか? 「ちょっと待て、言ってる意味がわからねえよ。なんで俺がお前なんかと……」 「俺は公敬の事が好きだったんだよ、高校の時……ずっとお前が好きだった」  混乱の極み……  あんな嫌悪感丸出しの顔をして俺のことを「無いわ……」と蔑み、拒絶の言葉を吐き捨てた男が何を言ってる? 俺から離れていったのは晋哉の方だよな?   今更…… 「馬鹿にするのも大概にしろよ! どの口が言ってんだ? 今度は何か? 俺を揶揄って楽しんか!」  ふざけてやがる! 腹が立ってもうこいつとはいられないと俺は席を立った。

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