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93 久々の再会
アキラの件があってから、なんとなくあのバーには足が遠のいていた。
あの時は俺に気を使ってか妙にテンションが高めなマサにしこたま飲まされ、かなり上機嫌で帰宅した記憶がある。それでもちょっと気不味くて、段々と店には行かなくなっていった。
行かなくなった代わりに俺は他の店に行くようになる。マサのいるバーからさほど遠くない似たような店。そこもやっぱり出会いを求めて男が集まるような店だった。
アキラのことで懲りたというわけでもなく、やっぱり一人でいると人恋しくなってしまう。一度楽しく心地良い経験をしてしまったら、自分と同じような人間と話がしたいと思ってしまう。
寂しいと思ってしまう……
俺は話をして気が合いそうな奴には積極的にアプローチをしていた。
別に優吾さんに操を立てているわけじゃない──
でも一度だけアキラに抱かれてしまったあの記憶がどうしてもいい思い出にはならなくて、そういう雰囲気になっても挿入されるのは嫌だと思ってしまう。人肌のぬくもりに安心したい、触れ合って欲求を満たしたい。一時的なものだとしても、愛されたいと思うのに、挿入無しのセックスがしたいだなんて馬鹿げていると言われてもてもしょうがなかった。いくら気が合って優しそうな相手でも、俺がこんな事を言いだした途端、理解せずに強引に体を迫ってくることも多々あった。
「久し振りだね。お元気そうで何より」
ちょっとふざけた感じに、道で偶然会ったマサがそう言った。すっかりあの店には行かなくなっていたけど、その店で働くマサとは休みの日には違う店で飲んだりしていた。それでも最後に会ってから半年は経っている。
「どうした? なんかもう酔っ払ってる? ご機嫌だな」
この日のマサはちょっと様子が違っていた。気のせいかと思ったけど、俺より俄然酒の強いマサが足元もおぼつかずに俺に寄りかかるようにして話しかけてくるのは気のせいなんかじゃないとわかる。
「なんかあったのか? どっか店入ろうか」
俺の腕にしがみつくようにして歩くマサにそう聞いてみると、顎先で「そこ」と近くの店を指定された。
「あの店で飲む?」
「う……ん」
マサの指定した店の前に着くと「違う」と首を振り俺の腕を引っ張った。無言のマサに連れられるようにそのまま路地に入ると、その先のホテル街に出てしまった。
「………… 」
マサは何も言わない。
「……入る?」
頷くマサに俺はそれ以上何も言わず、マサのしたいようにさせてやった。
無言のマサは俺の腕にしがみつき、寄り添うようにしてどんどん歩く。一軒のホテルの前に着くと、チラッとこちらを伺い見る。俺が頷いたらマサは「ありがと」と小さく呟いた。
何かあったのだろうな、と察しがついた。マサとはお互い色々と話もしていたし、悩みなんかも聞いていた。その事とも関係があるのかわからないけど、俺はとにかく話は聞いてやらなきゃと思っていた。
「安田さん、優しいね。何で黙ってここまで来たの?」
部屋に入るなりさっとマサが俺から離れ、ベッドにドスンと腰掛ける。
優しいも何も友達の様子がおかしかったら心配だってするだろう…… でも「友達」だと思っているのは俺だけかもしれない。結局のところ、酒飲んで愚痴りあったり楽しんだり……お互いの素性も話してはいるけどそれだって本当か嘘かもわからないのだから。
「どうした? なんかあったのか?」
マサの顔が今にも泣き出しそうに見え、堪らず俺はマサの隣に座りそう聞いた。
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