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99 思いもよらない言葉

 何度体を重ねても、何度相手を変えて愛を囁いてみても、やっぱりそれは俺の中では偽りでしかなく何も満たされることはない。  わかっていても一人は寂しいから、俺は何度でも相手を探して店を巡った。誰かを抱いている時だけ求められていると安心する。でもそれはその時だけ……一時的なものだ。誰かを好きになるなんて今更もう出来なかったし、俺の相手をするような男もみんな本気じゃない。遊びなんだとわかっていた。だから何も期待はしていなかった。  これでいいんだと諦めていた。  俺は優吾さんに抱かれた時みたいに、少し乱暴に相手を抱く。痛みに顔を歪めていくのを見ると焦燥感に駆られるけど、大抵の奴はすぐに快感に支配され、悲鳴にも似た喘ぎ声を漏らす。苦痛に顔を歪めながら俺を求めてくる姿を見てなんとも言えない高揚感を得ることができた。  マサの店にもまた顔を出すようになった。でも以前とは違い、マサはあまり俺のことを歓迎してくれなくなった。  はっきり言われたわけじゃない。でも雰囲気でわかる。きっと俺に対するよくない噂でも聞いて不快に思っているのだろう。店に行けば軽い会話くらいはするけど、あまりお互いを干渉することもなくなった。  もう何年もそんなことを続けている──  気が付けばもう周りの男は自分より歳下ばかり。何となく若い奴に引けを取られたくなく、体を鍛えたり強がったり、我ながらバカらしいとも思う。  甘える事ももう忘れた。生きていくために仕事をして、快楽を得るために出会いを探す。毎日同じことの繰り返しできっとこのままずっと一人で生きていくんだとそう思っていた。 「お? 今月はよく会うね」  そう言って俺の隣に座ったのは橋本さんだった。この人とは特に約束をしていなくても、店などで月に一回程度遭遇していた。知り合った頃よりお互いだいぶ歳をとった筈なのに、橋本さんは相変わらず若々しかった。 「わざとじゃないの? 今日は一人? たまには一緒にどこか行く?」  これは俺のいつもの決まり文句。橋本さんには何度か体の関係を迫ったことがある……優吾さんと別れて間もない頃の話。俺の気持ちを汲み取ってくれていつも見守り甘えさせてくれていた。橋本さんがそう言っていたわけじゃないけど、俺がしんどくなって誘えば嫌な顔をせずいつも付き合ってくれていた。いくら俺が迫ってもそれに応えてくれることはなかったけど、それでよかったんだと思う。だからこそ橋本さんは今もこうやって俺が唯一ホッとできる存在なんだと思う。 「またそれな。俺は公敬君は抱けないし、抱かれるつもりもないからね」 「わかってるって。橋本さん今日はどうしたの? 俺に会いにきてくれたの?」 「可愛いこと言ってくれる」と笑う橋本さんだけど、今日はちょっと雰囲気が違って見えた。 「なあ……公敬君はいつまでそんな風にフラフラしてるの? そろそろ落ち着いてもいいんじゃないのか?」

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