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100 かつての自分のよう……

 思いもよらない言葉に俺は驚く。橋本さんにそんな風に言われるとは思わなかった。 「は? 落ち着くって何だよ。結婚とかそういうの? ……橋本さんに言われたくないんだけど。皮肉かよ」 「ああ、違うよ…… 君、女と結婚なんてできないでしょ? そうじゃなくてね、いい加減ウブな男の子捕まえて泣かせるのはやめたら? 」  別に泣かせたくてそうしているわけじゃない。でも橋本さんの言うことはもっともだった。 「元彼に変な性癖植えつけられちゃったの?」 「違うよ! 揶揄うな……」  橋本さんは明らかに俺のことを揶揄うようにそう言った。わかっているけどその言葉にどうしてもむきになってしまう。俺が「おかしい」みたいな言い方をするな……  不安なんだよ。  たとえ偽りの愛情でも、酷い仕打ちをされてもよがって俺に縋ってくれたら安心するんだ。 「でも、そうだね。気をつけることにする……」  わかっているからこそ胸が痛い。  こんな事、やめたいって思うこともあるんだ。  でも「気をつける」なんて言いながら、改めようなんてこれっぽっちも思わなかった。  橋本さんと会ってから数日のこと、俺は一人の男と出会った──  剛毅(ごうき)というその男は俺よりもずっと歳下の若くてまだあどけなさの残る明るい男だった。マサの店で少し話し、俺はいつものようにホテルに誘った。  屈託無く無邪気に理想の恋愛観を語り、今までなんの苦労もしてません……みたいな、この軽い雰囲気の男に苛立ちが無かったと言えば嘘になる。ちょっと紳士的に接したら何の疑いもなくついてきた。こんな店に来て寂しさを紛らわし、いずれは好きな相手が見つかっていい関係が築けたら、なんて言っているのは、心証良く思われたいのか本心でそう言っているのかはわからない。でもこんな俺に笑顔を向ける剛毅を見ていると、若い頃の自分を見ているようでどうしようもなく可哀想に思えてしまった。  いつものラブホテル。  部屋に入るなり剛毅は可愛く俺に抱きついてきた。向こうもそのつもりでついて来たのだから合意の上。優しく頬にキス 落とし「シャワー浴びてくる」と言って俺は先にバスルームに向かった。  イライラする……  シャワーを済ませて剛毅にも体を綺麗にしてくるように言う。ベッドに腰かけ俺は剛毅が戻るのを待った。 「もういいのか?」  思いの外早く出てきた剛毅にそう聞いた。受ける側は幾分準備に手間が掛かるのは知っている。かつての自分がそうだったからわかる。 「ああ、うん。家で準備してきたから大丈夫……」  緊張しているのか、先程までの明るさは消えいて剛毅は俺の前で突っ立っているだけだった。 「ほら……早く来いよ」  剛毅に向かって手を差し出すと、おずおずと近付いて来る。俺は強引にその手を取り、ベッドに投げつけるよにして乱暴に剛毅を押し倒した。

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