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102 愛なんて無い
「挿れて……ください」
酷く屈辱的な表情をして、剛毅は小さくそう呟いた。期待して俺を見るその目。それでも少しもの抵抗なのか、その気のないような雰囲気を醸し出す。
「滑稽だな……」
剛毅の腰を強く掴み、俺は思いのままグッと奥まで一気に突き挿れた。
「はっ……うぐっ……んっ……んん……あ! あ……あっ……あ……ああ」
優しくされるとでも思っていたのか、遠慮なく腰を律動させていたら酷く苦しそうに喘ぎながら俺を睨んでくる。生意気なその視線に俺はいつもの通りに頬を叩いた。
みんなそう…… 睨んだり抵抗したり泣いたり、でも結局は善がって気持ちよくなって腰を振るんだ。
「睨んでんじゃねえよ……ほら、啼け。いいんだろ?」
「……んっ、あっ……」
縛られた手首を前に出し、抵抗しながら俺の胸を叩いてくる。それだって全然本気ではなく猿芝居だ。邪魔臭いその腕を持ち上げ頭の上で固定した。
相手のことなどお構いなしに自分の好きに快感を貪る。
どうせここには愛なんてないんだ。優しくしても気遣っても何も生まれない。終わって残るのは虚しさだけだ。それでもこうやって淫靡な空間を共にして、どんなにぞんざいに扱っても俺を求めしがみついてくる様に、俺は小さな安心感のようなものを感じていた。
「二度とあんたとは会わないから……」
あんなに善がって可愛く喘いでいたくせに、終わってみれば掌を返したように俺を睨み嫌悪感丸出しにそう言った。行為の最中に俺が叩いた剛毅の頬は赤くなっている。ぷりぷりと怒りながら剛毅は一人でシャワーを浴びに行き、五分としないうちに着替えも済ませ、そのまま目も合わさずに部屋から出て行った。
床には剛毅の切り刻まれた下着の残骸と血のついたタオルが落ちている。そういえば少しだけ太腿辺りを切ってしまっていたな、と俺はぼんやりと思い返した。
「はは…… 今回は比較的優しかったと思うんだがな」
寂しさを埋めるように誰かを求め、虚しさの中で体を重ねる。優しくしたって自分には返ってこない。乱暴なセックスをしても、それでも自分が求められることに安心する。
そう──
それでいいんだ。
二度と会わないと言われたけれど、俺はセックスをした相手と二度目は会わない。何故ならまた会いたい、また抱きたい、と思えるような奴とは出会わないから。
そんなの言われるまでもない……
この時はいつものようにそう思っていた。
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