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104 退屈しのぎ
「何それ? そんなのメニューにあったっけ?」
何度かこの店にも来ているけど、こんながっつりした食事をしている奴なんて見たことがなかった。おまけに美味そう。最近は自炊をしても簡単なものばかりだったので、こういった家庭的な食事は魅力的に見えた。ここでこんな物を食べられるのなら俺もたまには頼みたいと思いすぐそこにいるマサに聞いてみるも、奴だけに出している特別メニューだと言い面倒臭そうに一瞥された。
「──あと、この人はダメだからね。そういう目的じゃないから……声かけても無駄よ」
周りに聞こえないよう小さな声で俺にそう言うと、更にマサにとって「恩人」だから手を出したら承知しないと念を押された。
そんなの本人がその気になりゃ関係ないし、先程から俺とマサの会話も聞こえてるだろうに、さも関係ありませんと言ったような顔をしてすまして食事を続けているのが気に食わなかった。
何の縁でここにいるのかは知らないけど、全くのノンケでおそらくこの店の特徴もわかってないのだろう。
「なあ、そろそろ食い終わるだろ? どうだ? 場所変えて俺と呑み直さない?」
よく見ると顔も綺麗だし、気が強そうなのと気取った雰囲気が面白そうだと思った。どうせ声をかけたって断られるのは百も承知。それでも退屈をしていた俺には十分だった。そもそもこの店に来る男の目的なんて知らないであろうこの男を揶揄うのも面白い。
「ほんと……美人でお高い感じ、いいねえ。俺気に入ったよ。攻略したくなる……」
初対面の人間と飲むなんてことはしないと言って迷惑そうに断る靖幸に、俺はわざとムカつかせるような言葉をかけながらテーブルの上の靖幸の手をそっと握った。
明らかに困惑したような表情を見せる。やっと自分がどういう風に見られているのか理解したかな? と反応を面白がっていたら、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「何でこんな所にいるんですか……」
振り返るとそこにいたのは剛毅だった。
てっきり剛毅は俺に言っているのかと思ったけど、俺ではなくこの男、靖幸に話をしているようだった。そうか、こいつらは知り合いだったのか、と、更なる面白そうな展開に俺は様子を伺っていた。
「マスターと知り合いみたいだったからまさかとは思ったけど……何しに来てるんです?」
「俺がここで腹を満たしちゃいけないっていうのか?」
二人の会話が噛み合ってないように見えちょっと可笑しい。そしてムッとする靖幸を無視するかのように、剛毅は俺の隣に腰をおろした。
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