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107 意外な接触

 あの時の剛毅は、俺が靖幸に近付くのを阻止するため、という思いだけで俺をホテルに誘った。  ノンケに対する恋心が見え隠れしている剛毅の態度に苛ついて「優しくしてやる」と言いながら、結局は酷い抱き方をしてしまった自覚があった。  拘束し、剛毅が想いを寄せる靖幸の名を出し侮辱しながら甚振った。それでも健気に俺の言う通りに体を差し出し、苦痛に顔を歪ませ涙まで見せながらも淫らに喘ぎ求めてくる姿に、哀れに思う部分がほとんどを占める中、僅かな愛しさみたいなものも感じてしまった。  俺のことを心底嫌だと感じていたはずの剛毅が、何故かまた俺を誘う──  いつものように、誰かを見つけようと一人で店で飲んでいた。別に適当な若い子がいなければこのまま一人で過ごしたってよかったのに、ふと鳴った携帯を見てみれば、そこに表示されていたのは意外にも剛毅の名だった。 「おやおや、珍しい……」  しばらく勿体振るように画面を眺め、切られる直前を見計らい電話に出た。 「どうしたの? 君から電話なんて嬉しいな。俺とまた会いたくなっちゃった?」  わざとおどけて見せ、剛毅の出方を待つ。連絡先の交換はしたものの、まさか剛毅の方から連絡が来るなど思っておらず目的が読めなかった。 「会いたいから連絡したんだけど……」  思ってもみない剛毅の言葉に、一気に不信感が湧いてくる。マサの店にいると言う剛毅に「すぐ近くだから俺がそっちに向かうよ」と伝え電話を切ると、マサと顔を合わすのは少し嫌だな、と思いながらもすぐに店に向かった。  店に着き、ドアを開けるとすぐに剛毅が俺に気がつき小さく手を振る。 「マスター、ご馳走さま」  俺が店に入りたくないのを察したのか、剛毅はすぐに立ち上がり会計を済ませ俺のもとへ歩いてきた。 「じゃ、行きましょうか? 安田さん」  笑顔まで見せそう言った剛毅は、俺の許可を取ることなく自然に腕を絡めてくる。不信感はそのままに、それでも嫌われていると思っている相手から微笑まれ歩み寄って来られれば、多少は嬉しいと思ってしまう。 「何? どうしたの? いきなりホテルでいいんだ……」  戸惑いながら俺はずんずんと歩く剛毅に問いかける。 「安田さんもその方がいいでしょ? もう他所で呑んでたみたいだし……」  顔を覗き込むようにしてそんな風に言う剛毅に違和感が拭えない。何か魂胆があり俺を誘っているのはわかっている。それでも少し面白くなってしまった俺は「まあいいか」と軽い気持ちでいつも利用しているホテルに向かった。

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