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109 重ねる

「痛いの……嫌だけど……安田さん、優しくしてくれるから……ねえ、俺の身体に痕……つけてよ」  切なく甘い声色で剛毅は強請るように俺に言う。  違う……これは本心で言っているんじゃない。剛毅は俺を利用しているだけなんだと薄っすらとわかっている。大方自分を傷つけ、あの靖幸とかいう奴の気を引こうとしているんだ。  イライラが募っていく。生意気にも俺を利用しようなんて、と思う反面、こうまでして健気に相手を思う気持ちが羨ましくもなった。  俺にはもうそんな風に思える相手などいないし、これからも現れることもない。 「いっ……あっ……痛っ、やっ……待って」 「うるせな、待たねえよ。お前が煽ったんだろうが」  剛毅の乳首を捻り上げながら鎖骨あたりに歯を立てる。自分から煽っておきながら痛いと言って泣き始めた剛毅にイライラが増す。皮膚に滲んだ血を舐めとると俺は強引に剛毅の髪を掴み顔を上げさせ、だらしなく開いた口に己の勃起したそれを押し付けた。 「舐めろ……」  何度もえずきそうになっている剛毅に構わず乱暴に腰を振る。それでも必死に俺の滾りを咥えてる様を見て、虚しくなった。  本当はこんな顔をさせたいんじゃない。  誰だって体を重ねる時、人と触れ合う時はその時だけでも幸せな気持ちになりたいんだ。  剛毅だって笑うと可愛い顔をしている。抱いている時に見せる気持ち良さそうな表情も結構好きだ。俺だって想いの人には優しくされても酷くされても嬉しいと思い、幸せに感じていた時もあったじゃないか……  いつもと違った感情に自分自身訳が分からなくなってくる。乱暴に剛毅を抱きつつ、自身が付けた噛み跡を見て思わず視線を逸らしてしまった。  中途半端に優しさを出したってしょうがないじゃないか……  剛毅の背後から一気にそこを貫く。「うぐっ」と苦しそうな声を上げた剛毅の尻を思いっきり平手打ちする。嫌そうにも嬉しそうにも取れる剛毅の喘ぎ声に、やっぱり興奮する自分は酷い人間なんだと思う。俺に激しく突かれ突っ伏して呻いている剛毅の尻を容赦なく俺は叩いた。 「剛君、お尻真っ赤になって可愛い……今度はこっち向いて」  俺は剛毅を仰向けに寝かせると、自分のネクタイを取り出しその目元を隠すようにきつく縛った。  剛毅が俺じゃない誰かを思っているのなら、俺の顔なんか見なければいい…… そうすれば俺だってわからない── 戸惑う剛毅をそっと抱きしめる。そのまま俺は唇を重ねた。 「これなら誰だか分からねえだろ?」  言いながら寂しさがこみ上げる。  見えなくて不安なのか、剛毅は俺にしがみつくように抱きつきながらキスをしてきた。さっきは嫌悪感丸出しな顔をして俺のキスを受け入れたのに、見えなくなった途端にこれだ。自然と舌を絡めてくる剛毅に複雑な気持ちになりながらも、嬉しいと思う自分もいた。  酷くされても好きな人なら受け入れる──  思い出すこともなくなったあの人とかつての自分を思い出し、何故だか目の前の剛毅に当時の自分の姿を重ねてしまった。

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