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110 利用する

 目隠しをし、俺自身も都合良く剛毅を利用した。剛毅が俺じゃない誰かを思って抱かれる表情なんか見えなくていい。  忘れてしまっていた恋心を軽く掻き乱されたようなそんな気になりながら、俺は剛毅に自分を重ねる。愛しく思う相手となら、何をされても喜びだった。酷くされても自分の側からいなくなるなんて思ってもいなかった。愛されてると思っていたのは自分だけだった……だから去っていくあの人の背中を見ていることしかできなかった。みっともなく縋ったところで何も救いにはならず、余計に虚しさが残っただけだった。  可哀想な剛毅──  きっとこいつも俺と同じ。まだ実っていないこの恋も、たとえ報われたとしても俺みたいに最後には一人になってしまうのだろう。そう思ったらこれ以上酷く抱くことはできなかった。 「あっ……! あぁ……あん、やっ……っんん」  視界が遮られて俺がどこに触れるかわからないからか、前回以上に剛毅は体を捩り声を上げる。俺が優しく触れるたびにビクッと体を震わせ縋るように腕を伸ばした。剛毅の嬌声を聞くたびに、胸が苦しくなってくる。俺はそれを誤魔化すように剛毅の口をキスで塞いだ。 「安田さん……あっ……あ、やだ……イく……あっ……あ、安田さん?……ねえ……ひぁっ……声、聞かせて……安田さん? ねえ……あっ」  剛毅の声に不安が混じる。  見えてないから、俺がいつもと真逆に優しく抱くのに違和感を感じているのだろう。俺はあえて何も言わず、ひたすらに優しく剛毅を抱いた。そのうち剛毅の手が俺の頬にそっと触れる。その手が確かめるように顔を撫で、剛毅の方から口を寄せキスをした。熱い舌が容赦なく口内を舐る。吐息交じりに絡まる舌先に、一気に下腹部が熱を持った。そして自分でも戸惑う程、呆気なくそのまま剛毅の中で果ててしまった。 「安田さん……何だか、あの……珍しいですね。俺より先にイくなんて……」  自分で外したのか、目隠しを取った剛毅が俺を見ている。俺は剛毅を抱きしめたまま軽く頷いた。なんと言ったらいいのだろう。複雑なこの気持ちを言葉に出来ず、俺は剛毅の滾りを口に含み口淫を続け吐精させた。 「たまには普通にしたかったんだ……」  普通ってなんなんだ? 自分で言っていてわからなくなる。でもこれが一番手っ取り早く伝えられる今の気持ちなのかもしれない。事後こうやって誰かと寄り添い腕枕までして会話をする。そんな事は何年もしてこなかったし必要もなかった事だった。自然と剛毅の頭に手をやり話しながら撫でている。剛毅もそんな俺に何かを言うわけでもなく黙って身を委ねるようにして寄り添っていた。 「凄い感じてたな。目隠ししてたから? 誰を思ってそんな風に甘えたんだ?」 「甘えてなんかないし、見えなくたって安田さんだろ?」  あたりまえのようにそう言って不思議そうな顔をした剛毅を見て胸がスッとしたような気がした。誰かの代わりに俺を求めたんじゃなかったのか? 「なら何で俺と会ってこうしている? 誰かの代わりじゃないのか? 俺は……」  もうすっかりモヤモヤしたものや苛立ちは消えていた。もう少し剛毅と一緒にいたいと思ってしまった。 「代わりじゃない……安田さんなら痕つけたり傷つけてくれると思ったから」  俺が首を傾げたら、剛毅は笑ってベラベラと話し始めた。やっぱり俺の思った通りだった。自分に傷を付け、意中のあの男に気に掛けてもらうためだと屈託無く笑いながら話した。 「ほう……それで俺は呼び出されたわけね」  それだけ言って俺は一人バスルームへ向かう。  わかっていた事だけど、こんな事ででも求められた事に嬉しく思ってしまった自分が少し惨めに感じた。

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