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113 恋人の部屋

 剛毅の方から久しぶりに連絡があった。    何度も逢瀬を交わし、遊びのつもりがいつの間にやら自分の感情が分からなくなってしまった。苛つきや同情、剛毅に自分を重ねた時点で歯車がおかしくなっていったのは何となくわかっていた。 「安田さん? 俺です。剛毅です。あの……すみません、今一人ですか?」  一人家でぼんやりしていただけ。電話に出た途端声がかすれてしまったせいか、剛毅は俺が誰かと一緒なのかと思ったらしく、申し訳なさそうにそう聞いてくる。 「ああ……一人だよ」 「よかった、お楽しみ中だったらどうしようかと思った……」  俺の返事に、電話口で剛毅が戯けたようにそう言って笑った。 「何で? 一人に決まってるでしょ?」  俺は剛毅の方から連絡をくれたことに喜び、自然と笑みが溢れた。  剛毅の声を聞いた途端、人恋しくなってしまった。剛毅から連絡をくれたことも嬉しくて素直にそう伝えたら、今から会いたいと言われてしまった。  こんなやりとりはまるで恋人同士みたいだ……なんて少し浮かれながら、俺は待ち合わせの場所に指定されたマサの店に向かった──  マサの店で少しだけ飲む。  隣に座り俺に笑顔を向ける剛毅を見て、今まで以上に愛おしさが湧いてしまった。きっともうこの時点で俺はおかしくなっていたのだろう…… 「まだ呑み足りないでしょ? 俺の部屋に来ない?」  何か言いたげな剛毅に、俺は話す隙を与えずに、呑み直そうと家に誘った。自分から家に誰かを誘ったことなど今までに一度もなかった。でも恋人同士ならなんらおかしなことではないと、この時の俺はそう思って剛毅を誘っていた。剛毅はそんな俺を見て警戒しているのか、いつものホテルじゃだめかと聞いた。 「あー、うん……でもいい酒が手に入ったから剛君と一緒に飲みたいんだよね……もしかして俺の部屋来るの怖い?」  嘘も方便。何食わぬ顔で俺は剛毅を見つめる。反射的に「そんなことない」と剛毅が言うから、わかりやすいな、と思わず笑ってしまった。 「そうだよね。恋人の部屋に呼ばれて怖いなんて……おかしいよね」 「………… 」  言葉に詰まる剛毅を無視し、俺は剛毅の肩を抱く。店を出てすぐにタクシーを捕まえて二人で乗り込むと、わざと座る距離を詰め、「もっとこっちに……」と腰を抱いた。しばらく走ると眠くなってしまったのか、うつらうつらし始めた。俺が「着くまで寝てていいよ」と言うと、甘えたように頭を寄せすぐに剛毅は眠ってしまった。  警戒しながらも俺について来た剛毅はどう思っただろう。警戒しつつもこうやって俺に無防備な姿を晒しているのは、少しは好意を持ってくれているからだろうか。このままノンケの靖幸なんかじゃなく、俺にしておけば……俺みたいな辛い思いをしなくて済むのにな、と、窓を流れる景色を眺めた。

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