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114 寄り添った方が楽
この家に人が来るのなんてどれくらいぶりだろう。ここのところは橋本さんすら来ていなかった。
警戒しながらも差し出されたスリッパに足を入れ、パタパタと軽い音を立てながら俺の後をついてくる剛毅。まだどこかあどけなさも見える男に、本当に俺のことを好きになればいいのに、と思ってしまった。
「適当に座っててよ。ちょっと着替えてくるから……待っててね」
落ち着かない様子の剛毅の頭を軽く撫で、調子に乗って額にキスまでしてしまった。何となく甘い雰囲気に俺は自ら酔ってしまったのかもしれない。寂しさややるせなさ、様々な感情にきっと正常な判断ができなくなってしまったんだろう……今になってそう思った。
いい酒が入ったなんて嘘。剛毅を家に連れてくる口実だ。そんなもの剛毅だって分かってると思っていた。
部屋着に着替え剛毅のもとに戻ると少し寛いだ様子で俺を見る。そして口実に使った酒のことを聞かれたから、俺は素直に嘘だと伝えた。
「そんな嘘つかなくても。安田さんらしくないね。安田さんならもっと強引じゃない? それに俺なんかにプライベートなとこ見せちゃっていいの?」
剛毅のその言葉から、戸惑っているのが垣間見えた。
やっぱり俺じゃ駄目なのか……恋焦がれて辛い思いをするより、お互い同じ境遇で寄り添っていた方が楽だし傷つかなくて済むのに。
「剛君にはもっと俺のこと知ってもらいたいって思ったから。それに、よかったらここに一緒に住んでもいいんだよ?」
可哀想に、と、哀れみからキスをする。明らかに驚いた顔をする剛毅を見て思わず笑ってしまった。
わかりやすいにも程がある。
「ほんと剛君はすぐに顔にでるね。そんなに困る? 俺が恋人だと……そんなに警戒されると流石の俺でもちょっと傷つく」
「……困りますよ。俺、前に言ったでしょ。気になる人、いるんです」
そんなの知ってる。分かっている。それでもお前は俺を選択した方が幸せなのだと言ってやりたい。
「知ってるよ……ごめんね。とりあえずさ、食べよっか」
俺は剛毅のために用意した簡単な食事を振る舞った──
「剛君……剛君、大丈夫?」
酒を飲みながら食事も終え、剛毅はソファーでぐっすりと眠っている。
「剛君……起きないよね? 君みたいなのはね、俺にしといた方が幸せなんだよ。ねえ、剛君。あんなすましたノンケなんてやめときな」
一通り後片付けも終えた俺は揺すっても起きない剛毅に話しかける。
そう、起きるはずがなかった。
俺が服用している眠剤をこっそり料理に混ぜて食べさせたから。
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