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117 もう会うこともない……
付き合うことはできない。そうはっきり言って剛毅は俺の家から出て行った。
わかっている。
それでも俺はやっぱり「寂しい」と思ってしまう。
「フラれたら、今度こそ俺とのこと考えてくれてもいいからね」
冗談ぽく笑い、俺は剛毅を追い出すようにして送り出した。俺の気持ちを汲んでなのか、剛毅は申し訳なさそうな顔をして俺に向かって頭をさげて帰っていった。
これでもう、お互い会うこともないだろう──
それから数日が過ぎ、俺の中の剛毅の存在もだいぶ薄れいつもの日常に戻っていった。
「で、今日は何なのさ。俺のこと待ってたなんて珍しい」
久々にマサの店に立ち寄ったらいつも俺が座るカウンターの席に見覚えのある男が座っていた。
「特に何もないさ。久し振りに公敬君に会いたいなって思っただけだよ」
「だからっていきなり「待ってたよ」なんて言われたら身構えるじゃんか……」
橋本さんは付き合いも長く、何でも話せる信頼のおける人物になっている。久しぶりに会ったせいか俺は少し気持ちが高揚していた。自分の周りがみんな年下の若造ばかりになってしまった今、唯一俺より年上の橋本さんの存在は甘えても大丈夫だと思わせてくれて気の休まる大事な存在になっていた。俺は今までのように軽口を叩きながら、上機嫌で酒を呷った。
そう、俺は気分が良かったはずなんだ。
それなのにどうして──
「ちょっと、公敬君? もう帰るよ? 立てる?」
「……うん」
「やだ、大丈夫? 安田さんたら珍しい。橋本さん悪いわね」
店のマスターのマサまで俺を哀れみの目で見ているような気がして不愉快だった。俺はふらつく体を無理やり立たせ、一人で平気だと言わんばりに橋本さんを押し退ける。それでもグイッと腕をとられてしまい、されるがまま無理やりタクシーに乗せられてしまった。
結局橋本さんは俺の家まで一緒に来てくれて、もたついて何もできない俺のかわりに家の鍵を開け、着替えまで手伝ってくれた。
「大丈夫かよ、君らしくない」
「何なんだよ……もう俺に構うな」
俺らしく? 何言ってんだ? 俺はずっとずっと「俺」のままだ。
わけもなく泣きたくなる。
きっと酒のせいなんだ。歳をとったら涙もろくなるというのは本当なんだな、とグルグルする頭で考えたら可笑しくなってきて笑ってしまった。俺だってもう中年と呼ばれるいい歳なんだ。
情緒不安定この上ない……
橋本さんは店にいた時と同じに、俺を見て悲しそうな顔をする。
本当何なの? 久しぶりに会いたいなって思っただけなんだろ? そんな深刻な顔して、俺のことバカにしてるのかな? そう思ったら俺は声に出して笑っていた。
「ごめんな。優吾が離婚したなんて言わなきゃ良かったな……」
そうだよ。それもこれも、みんな橋本さんのせいなんだ──
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