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123 知りたい

「もうさ、やっぱり公敬君、俺にしておく? 身勝手な優吾なんかもういいだろ。俺と付き合ってみる? その方が心穏やかでいいんじゃね?」 「え?」  橋本さんは酔っ払ってしまったのか突然そんなことを言い俺の手を握る。確かに何度か橋本さんとなら……と思ったこともある。でも今までこういういい関係が続けていられていたのも、事あるごとに俺の弱さを橋本さんが受け流してくれていたからだ。それに、優吾さんと「手を出さない」と約束をしているにもかかわらずこんなことを言い出すなんて、俺は驚いて何も言えなかった。 「いいだろ、もう。散々振り回されてきたんだ。優吾のことなんか理解できないんだろ? ならもう忘れなよ」  言いながら、掴んでいた俺の指先にキスをする。  目の前の橋本さんが急に、俺の知らない人に見えた──  過去に「抱いて」と縋ったこともある。ずっと俺のことを見守ってくれていた橋本さんとなら……そう思うのにやっぱりそれは「違う」と俺の奥底にある感情が訴えた。  指先に触れる優しさに目頭が熱くなる。もしかしたら橋本さんは本心でそう言っているのかもしれない。でも俺には「向かいあえ」と背中を押されているような気がしてならなかった。  本気でぶつかりたい。  俺の「今まで」を知ってもらいたい。  彼の本心が知りたい。  俺に対して本気で接してほしい。  結局のところ本当のことが知りたいんだ。  幼く稚い恋愛しか知らなかった俺がどんなに傷付いたか、どんなに絶望したか……  もうあの時の可哀想な俺は救ってやることはできない。  それでも今の優吾さんとちゃんと向き合えたなら、きっと俺は前に進めるような気がした。     「俺さ、あの時の優吾さんに何があったのかちゃんと知りたい。橋本さん、知ってること、俺に教えてよ……そしたら俺、優吾さんともう一回会って話をする。優吾さんの口からもちゃんと聞けたなら、そしたらなんかすっきりすると思うんだよね」 「……そか。で? 俺と付き合う件は?」 「ああ、それはその後で」 「はは、俺は保険かよ。いいよ、寂しくなったら付き合ってやる」  保険だなんて思っちゃいない。そもそも優吾さんと「やり直す」という選択肢だって今の俺の中には無い。でも橋本さんはやっぱり俺を後押しするためにああ言ってくれたんだと嬉しくなった。この人とはこのまま、ずっといい関係のまま歳をとって死ぬまで一緒にいられるんだと安心できた。 「橋本さん、すごくいい人だよね」 「今更? え? 気付くの遅くない?」  恋だの愛だの抜きにして、信頼できる人が身近にいるだけで俺は大丈夫だと思わせてくれる。今までだってたくさん助けられてきたのに、ほんと今更だよな、とおかしくなった。

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