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124 病気
橋本さんは「俺もあの場にいたから……」と、優吾さんの結婚の真相を簡単に教えてくれた。
実際優吾さんは結婚はしたくなかったということ。
優吾さんのセクシャリティに関して、両親、特に父親の理解がなかったこと。
父親の仕事を継ぐにはその「病気」を治さないと、と言われ続けていたこと──
「あいつは一人っ子だったし、元々そういうの隠すタイプじゃないだろ? だから早々に両親に「自分はゲイだから結婚はできない」って言ってたんだよな」
俺と同棲を始める際、祖母に挨拶がしたいと言っていた優吾さんを思い出す。俺の気持ちを尊重してカミングアウトはせずに挨拶をしてくれた。俺が拒まなければ、当たり前に「恋人」として挨拶をしていたのだろう。生きてきた中できっと色々思うところもあったと思う。それでも優吾さんは後ろめたいとも思わずに、俺のことを「恋人」として扱い接してくれた。堂々としていた。それなのに、実の親からは理解されずに「病気」だと言われ続けた優吾さんは一体どんな気持ちでいたのだろうか。
唯一の父親だから、安心させてやりたい気持ちは優吾さんにもあった。ひとりっ子で会社を継ぐのは自分しかいない。我儘に振る舞えば抱えている多くの社員にも迷惑がかかってしまう事にもなりかねない、と。
そんなことはわかっている。それでも父親の望むような人生は歩めないと、自分に対する過度な期待を常に感じていた優吾さんは、なおさら黙っていることはできず早い段階で自分のセクシャリティを告白した。母親には理解してもらえたものの、父親はそれを受け入れなかった。正確には受け入れている風で全く理解はしていなかったと言うのが事実だった。
大切な跡取りである我が子のことを、男しか愛せない「病気」なのだと理解した父親は、その病気を治そうと、躍起になっていたのだと橋本さんは教えてくれた。
「いつまでも独身でフラフラして跡取りもない。俺は心配で死んでも死に切れん! って、そう言っていた会長……親父さんは、自分は病のせいでもう先は長くないとわかったら、勝手に決めた縁談をあいつに持ちかけたんだよ」
── 俗に言う「政略結婚」
詳しくは知らないけど、相手は関係会社の社長か何かの一人娘だったらしい。「見合いだ」と連れて行かれれば、もう既に式の日取りや招待客など細かなことまで決められていたのだと言って、優吾さんは当時はかなり怒っていたらしい。
「今時そんなことって……実際あるんだね」
「ああ。とは言ってもお袋さんは優吾に理解あったし、焦って強引にことを進めてたのは親父さんだけだったからな。実際今は優吾の思い通りになってるし」
思い通り、と言うのは今のこの現状のこと。
俺からしてみたら、奥さんを裏切り離婚をし、会社も失い、友である橋本さんの世話になっているこの現状が「思い通り」だと言うことが信じられなかった。
「こんな結婚、反対するのは優吾だけじゃないだろ? 女の方だってたまったもんじゃねえよな」
優吾さんと結婚させられた人──
彼女は優吾さんとは会社のパーティーで何度か顔を合わせたことのある人だった。
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