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125 自由に

 突然の見合から数日後、第三者である橋本さんは優吾さんと婚約者の彼女と三人で食事をした──  美人で気が強そう。話してみても最初の印象通りハキハキと自分の意思をはっきり伝え、利己的な人物だったと橋本さんは笑って言った。 「あなたは結婚してしまえばいずれは情が湧いて愛し合うこともできるかも、なんて思ってるかもしれないけど、あいにく私はそういった感情が湧くことは一切ないから。あなたとの子どもだって必要ない。それでも構わないのであればこの縁談、お受けしたいと思います」  臆することなく優吾さんをジッと見つめてそう言い放った彼女を見て、滅茶苦茶で失礼なことを言っているのは彼女自身重々承知で、でもきっと優吾さんと同じなのだと理解した。意にそぐわない結婚を強いられているこの状況。自ら破談に持っていこうとし、決定権を相手に委ねることで、できるだけ自分の方には非がないと知らしめる。もう既に式の日取りなどを決められ、多くの人が動き始めてしまっているこの縁談を回避するのは、かなりの労力を要するのも分かっていた。  諦めの気持ちが大きかった優吾さんは、この彼女の言葉に救われたのだという。 「後継なんて、何も血縁に継がせなくたって自分が信頼のおける人物に委ねればいい……」  そう呟いた優吾さんは、自分がゲイであること、心に決めた人が既に存在していること、この結婚はすることになるが、いずれは一人になりたいということを淡々と語ったのだそう。 「私は会社を自分のものにできればそれでいいわ」  会長である父親は、病気のためきっと先は長くはない。こんなことを言うのは冷たい人間だと思われるかもしれないけど、自分が任されている会社も今までの功績も、全ては父親の敷いたレール上でのことで自分自身執着も未練も何もない。だから父親の死去後はこれらから縁を切り、ゼロからスタートし自由になりたいのだと優吾さんは静かに話した。 「ああ、もう疲れた……ゆくゆくは全て君に任せるから、それでもいいかな。こちらの我が儘で申し訳ないけど」 「いえ、私にとって人を愛することは難しいことだけど、でもパートナーとして、と考えたらあなたは好きよ。お互いの理にかなっていて居心地が良ければ籍を入れるくらいかまわないわ」  彼女は人を愛し、添い遂げたいという感情がわからないと言った。恋愛感情や性的な感情、そういったものが欠如しているのだと笑顔で話す。人間性を見て、その人物を尊敬できるか、自分を向上させるのにいい刺激をもらえるか。一緒にいて息苦しくなく自然体でいられるか。異性同性問わずそういう部分に魅力を感じ、惹かれるのだそう。 「むしろ私の方が好条件で悪いわね」と笑う彼女に、この場にいる橋本さんが証人だと言い、約束を交わす。「いい友人になれそう」と言う彼女を見送り、その日は橋本さんは朝まで優吾さんと二人で呑み語らった。   「学生の頃からの腐れ縁だけど、お互いあまり本心では接してこなかったんだよな。でも見かけとは裏腹に優吾は生き辛そうだな、とはいつも思ってた。親からの理想を押し付けられてそれを演じている風に見えてたからさ。でも彼女のおかげで随分と吹っ切れたみたいだけど」  あんなに飲んだくれて本心丸出しな優吾は後にも先にもこの日だけだ、と橋本さんは振り返る。  きっと優吾さんとすれ違いの生活になっていた頃の話。  橋本さんの話を聞きながら、俺は優吾さんにとってどんな存在だったのか、自由になりたいという当時のその思いの中に俺は必要なかったのか……と、更に距離を感じてしまい辛かった。

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