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 教職員寮は、その教職員が学園のOBで半数近くを占めているからこそ手が抜けなかったのか、実にゆったりと贅沢に作られている。  3年で退寮の学生と違って勤めている限りずっと同じ部屋に住むからこそ、設備には気を遣われているのだろう。  そのおかげで1LDKの寮室は、クイーンサイズのベッドが据え付けられている、もはや納戸と言っても良いウォークインクローゼットがある、トイレは自動洗浄機能の付いたウォシュレットで、トイレ内に手洗い場も鏡も付いている、風呂は大人の男が足を伸ばしてゆったり寛げる大きさで、給湯器制御盤に防水テレビ付きだ。  生徒会長時代に柚栖が押し掛けて来ていて半同棲状態だったのも、この大きな湯船が主目的と言っても良い。  ぬるめの湯温でゆっくり時間をかけてイチャイチャしながら寛ぐのは、ひと運動終えた後のピロートークならぬバストークとして定番だった。  そんなわけで、結局小柄のまま成長が終わった柚栖の身体を腹の上に乗せて抱っこしつつ、のんびりタイム中である。  手持無沙汰を誤魔化すのに可愛らしい乳首やら半勃起状態のフニフニした可愛い子を指先で弄りながら、目の前の軟らかそうな耳朶を甘噛みしつつ。  俺に背中を預けて寄りかかっているせいで反撃できない柚栖は、モゾモゾと反撃の隙を探して身動きしつつ、結局ヤられっぱなしで身を預けたままでいる。  微妙な素直じゃない感もまた良し。 「もうね、徹頭徹尾亨治と生涯共にすることしか考えてないんだよ、僕は」  今までの空白の4年間についてキリキリ吐け、と脅した結果の結論がそれだった。  幸いと言うべきか、この学園は理事長が一族以外から就任することもあって表向きはそう見えないのだが、創立以来変わらず篠塚家の所有だ。俺はそこに雇われた被雇用者であって、辞職するか免職処分されるかでもない限りはずっとここにいる。  その俺のそばに将来の自分の居場所を定めた時に、柚栖の進路の選択肢は教職員になって同じくこの学園に就職する1点のみだったらしい。  実際、柚栖の進学先は都内私立大学の教育学部だった。専攻も高等教育理論と児童心理学という2足のワラジ状態。  よくそんなことできたな、と感心したのだが、3年次で児童心理学を専攻し、その素地を持って高等教育理論で学位論文を書き上げたということらしい。  そんな勉学履歴に目をつけたのが柚栖の祖父。ここ何代か頼りない理事長しか据えられなかったこの学園に、理事長として戻らないかと持ちかけられた。柚栖の方から就職先相談するつもりだったところに先手を打たれた形だった。  実はその背後には柚蘿と柚佐の掩護射撃があったようだ。  企業経営としての後継は上の2人が既に結果を出して手腕を見せている。そもそも柚栖と柚舞くんには本人の希望を最大限に応援すると家族内で話が決まっていた。本人は母校に戻ることを希望している。ならばこの際、数年来停滞している学園の理事長職を任せたらどうか、というわけだ。  柚栖を戻してくれたあの2人には改めて礼をしなければ。  そんな進路が決定したのが1年前。就職活動と考えれば妥当な時期だろう。  それから、理事長職の引き継ぎの他にちょうど1年生の柚舞くんから情報収集したり理事会に顔を出したりで、満を持しての理事長就任と至ったわけだ。 「後はこの閉鎖空間でのんびり過ごすだけだよ」 「その動機が俺、ってのはご家族承認の上なのか?」 「勿論。生活が落ち着いたら連れてらっしゃいって母様が言ってた。ゴールデンウィークくらいで良い?」  そんなあっさり重大イベントを口にされても困るんだが。いや、まぁ、覚悟を決めるしかないんだがな。  高校生をタブらかした高校教師だぞ、俺は。改めて考えなくても犯罪だ。 「あ、大丈夫。安心して。柚蘿兄の親友で柚佐兄の尊敬する先輩って触れ込みがあるから、うちでは好印象なんだよ」 「ハードル駄々上がりじゃねぇか」  勘弁しろ。まったく安心材料にならない。  がっくりと肩を落とす俺を気にせずに柚栖はクスクスと楽しそうで、まぁ楽しいならそれで良いんだが。  がっくりしている間手が止まった俺に焦れたらしく、クルリと身体を反転させて俺に抱きついてくる。  落ちてくるキスに異論はなく、舌を甘噛みしてくるのに誘われて後頭部と腰に手を回して押さえつけてやった。  色っぽい声をもらしつつ力を抜く柚栖の、目の前に見える撓った背中とか細い腰とかプリンと膨らんだ尻っぺたとか、堪らなく煽られる。  元々性癖がノーマルだから、ペタンコの胸やらプルプルの性器やら、もちろん柚栖のモノだから嫌いなわけがないけれど、それよりも背中側の方がセックスアピールを感じてしまうのだ。  背中フェチとかいわない。  男ってのは視覚から性欲を煽られる生き物なんだよ。 「ぅんっ……。ね、こーじ……」 「そろそろギブアップか」 「ん、あっぷ。ほしい……」  さっきまで真面目な話を楽しそうに披露していたくせに、切り換えが早い。呆れ半ば愛しさ半ば。  けれど、拒否の選択肢など元々手元にない。 「コレ、食べて良い?」  そっと握られるのは柚栖を弄っている間もその背中に押し付けていた半勃ちのブツで。やわやわと緩急自在に握られるだけで準備万端になるソイツは、自分のモノながら現金なヤツだ。 「下の口で?」 「ん。はいる」  そりゃ、今夜一度済ましているから緩んではいるだろうが。それでも心配で背中を辿ってソコに指を触れてやったら、イヤイヤと振り払われた。  どうやら自分でしたいらしい。  積極的だよな、相変わらず。生徒会室で俺を襲ってきた時から、積極性はずっと変わらない。何故受け入れ側を志望したのかは未だに謎なんだがな。  俺の肩に片手をついて支えにしながら片手と自重を使って受け入れていく。身体の構造から随分無理をしているはずなのに、恍惚とした表情は痛みを感じさせなくて安心する。 「ぁ……ふにゅ、ぅん……、はいっ、た」 「おう、よく頑張ったな」 「へへ~」  ふにゃっと笑う。二十歳を越えてもなお、こんな表情だと幼く見えるのだけど。可愛らしいなぁ、としみじみしたり。  さて、そろそろ主導権は返してもらおうかな。 「ふにゃあんっ」  油断しているところを下から突き上げてやれば、ちょうど良いところに当たったようで反応が顕著で。  くんにゃり力を無くした身体を抱き止めて、腰を掴んで引き寄せて。 「柚栖」 「んにゃ、にゃっ?」 「愛してるよ、俺の可愛いネコ」  受け身だからではなく、にゃあにゃあ啼くからのネコ呼ばわり。  うちの恋人は本当に可愛らしい。

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