相変わらず取り巻き引き連れて騒がしいながらも能代の周囲もこれはこういうものとして日常生活に取り込まれ、祝日に挟まれた5月初日の学年交流会は無事に開催された。 　準備に頑張った飛鳥と坂之上は本当に良く頑張ったと思う。生徒会に本腰を入れられない秋山に時間配分に合わせて担当の仕事を回し、自分の分しかやる気のない鐘崎に宥めすかしつつ早めに仕事を片付けさせ、いつまで遊びたい盛りなのかいたずらっ子モードが抜けない鵜山兄弟を叱りつけ。 　前評判は聞いていたものの、本当に坂之上の猛獣使いっぷりが感心するレベルだった。 　次のイベントは体育祭だが、こちらのイベントは体育の授業の一貫として教師も企画作業に参加するし、メインとなる旗振り役は実行委員会となるため生徒会は会計業務以外はそんなに手がかからない。 　生徒会改革をするなら1学期はちょうど良い隙間時間なのだが、ひとまずゆっくり休んでもらおう。 　それよりも、俺自身が私事で一世一代の大イベントが控えていて気持ちが忙しい。学校の将来に気を回している余裕はないのだ。 　そう。柚栖に言わせれば待ちに待った、篠塚家訪問である。 　学生の頃は柚蘿に招待されて訪問したことが何度もあるし、家が没落するまでは社交界でもご縁があった一家だから、家族みなさん何度もお会いして顔見知りではある。 　とはいえ、柚栖の伴侶として受け入れていただけるかというとそれはまた別問題なのだ。柚蘿も柚佐も歓迎ムードでメールを寄越してきたけどな。 　そもそも学園の敷地が山奥といえる場所にあるため最寄駅までが所要時間1時間以上。そこから新幹線駅までがまた1時間以上とかかるため、学生も教職員も目的地まで車移動が基本。 　それが出来ない経済事情の持ち主は長期休暇以外は学内から外に出ない。 　というわけで俺も、柚栖と柚舞くんを自分の車に乗せて東京の篠塚家までドライブとなった。 　休憩込みで6時間。ラッシュを避けるため明け方に出てきたが、行楽渋滞と逆方向なのが救いだな。 　屋敷に着くと、直前に柚栖から到着予告の連絡を入れていたおかげか、ガレージ前で柚佐が待っていた。 「蓮見先輩いらっしゃい！　柚栖も柚舞もおかえり。みんなそわそわして待ち構えてるよ」 　もうすぐパパにもなるイイオトナのくせに、俺を相手にすると思わずはしゃぐあたりも相変わらずだ。 　学生時代も柚蘿に次いでの人気者だったし人前ではクールで俺様で鳴らしていたはずが、対俺だと飼い主ラブなワンコにしか見えなかった。 　こうまで慕われると確かに嬉しいが。 　助手席から降りて俺の隣に駆け寄ってきた柚栖がヤキモチをやいているから止めてくれ。 　泊まっていくんだろう、良い酒を仕入れておいたから後で飲もう、とひっきり無しに喋りながら、一応はちゃんと玄関前まで案内してくれる。 　玄関は近づいたら自動で開いたので驚いたが。なんのことはない、柚佐の話し声で接近を把握した柚蘿が内側から開けてくれただけだった。 「柚佐、相変わらず飼い犬かお前は」 「だって、蓮見先輩とはもう10年近くぶりなんだよ、俺！　久しぶりすぎて興奮冷めねぇわ！」 　はいはい、と適当に流して興奮のあまり通り道を塞いでしまっていた柚佐を居間の方に追いやる。 　その柚佐を追って柚舞くんも家の中に入っていった。家族に帰宅の挨拶をしている声が聞こえる。 　柚栖は俺に付き添って傍らにいてくれて、柚蘿がこの距離感に苦笑を浮かべた。 「やっと来たな、コウ。柚栖が高校生のうちにも来てくれてよかったんだぜ。まぁ、未成年者唆してちゃ顔も見せ難かったのは察しが付くけどな」 「あぁ、何とも気不味いんだが……」 「気にすんな。お前らしく堂々としてろ。柚栖はそもそもお前と初対面のチビガキの頃からお前ひとすじだったのは家族みんな認識してるんだ。その柚栖が幸せにしてるならそれで何も問題ない」 　ほらほらシャキッとしろ、なんて背を叩いて励ましてくれるところが親友らしい気遣いだと思う。 　家族や柚栖と違う意味で、柚蘿には情けない自分も見せられる。柚蘿が今の奥さんを掴まえた時も今と逆の立場で同じような会話をしたしな。 　柚蘿の奥さんは俺が大学生の頃に授業を通じて知り合った友人で、その縁で引き合わせた関係なのだ。 　彼女には、男女の友情って本当にあるんだな、としみじみ思わされたが。 　柚蘿の先導で柚栖に寄り添われて顔を出した居間には、両親祖父母に兄嫁含めて全員勢揃いだった。 　入り口に立ち止まり、全員に向かって深く頭を下げる。 「ご無沙汰しておりました。本日は皆様にお集まりいただき、ありがとうございます。柚栖さんとの交際の件につきまして、改めてご挨拶に伺いました。よろしくお願いいたします」 　簡単すぎるが、他に言葉も出ず。 　ぎゅっと手を繋いできた柚栖に促されて頭を上げれば、全員がにこやかな、本当に心から自然に笑っている表情でこちらに目を向けてくれていた。 　それから、最近年齢を理由に隠居を宣言された先代に替わって当主になったお義父さんが口を開く。 「よく来てくれたね、蓮見くん。柚蘿や柚栖から聞いてはいたけれど、良い男になっていてビックリしたよ。そんなに畏まらないで楽にしてくれて良いからね。新しい家族として、歓迎するよ」 「自宅だと思ってリラックスしてちょうだいな。お父さんもお兄ちゃんたちも、蓮見くんが来てくれるって朝からソワソワしちゃって見てられなかったのよ」 　叱責どころか大歓迎のお義父さんに、ソワソワと表現した男たちを微笑ましそうに見やってみせるお義母さんに。義祖父母もそんな家族の反応にこそ楽しそうに笑っているだけで。 　なんともあっさりした挨拶の場は、ニコニコと笑みを浮かべたままお義母さんが口を開くので強制終了になる。 「時間もちょうど良いから、昼食を用意してあるのよ。お天気も良いし、テラスの方でいただきましょうね。佐奈さん、柚栖ちゃん、手伝ってちょうだいな」 　名前を呼ばれた柚蘿の嫁と柚栖が追いかけて居間を出ていく。 　義祖母は足腰が弱って家事を引退したそうで、柚佐の嫁は身重のため悪阻が治まるまでは立ち仕事は免除だそうだ。 　行動を促して柚蘿が俺の肩を叩くので、ようやく緊張が取れた。それぞれ動き出すのに合わせて移動しようとテラスの方を指差されたが。 　この家もはじめてではないため間取りも分かるし、俺はお義母さんの手伝いを申し出るためそちらに足を向けた。