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第4話 記憶<一緒に暮らそう?>

 あれから一週間。ロウと僕は、めでたく一緒に住むことになった。もともと僕が使っていた部屋という選択肢もあったが、そこは知り合いの天使を招いていたりしたので、やめることにした。 「さ、ロウ。ここが僕たちの新しい家だよ。家具は僕の好みで置いてみたけど、欲しいものとか替えたいものとかあったら言ってね。」 「ん。」  結局、少し都会から離れた所にある一軒家を買って住むことにした。マンションだと勝手な仕掛けをしにくい。 (ロウ以外に反応する悪魔除けと…あとは結界と、侵入者用のトラップと…) 「わあ。」  考えごとをしていたら、ロウが感嘆の声をあげた。 「どうしたの、ロウ。」 「いや、思っていた以上に部屋が豪華で…」  そう言いながら、ロウは少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。その反応が可愛くて、おもわず頬が緩んでしまう。 「なんだよ…」 「え?」  そんなに緩みきっていたのだろうか。ロウがすこしムッとした表情でこちらを睨んできた。ちょうど、ロウ用の寝室に入ろうとした時のことだった。 「何が?」  大方の予想はつきつつも、聞き返してみる。 「だから、その緩みきった顔だよ!!さっきからずっとニヤニヤニヤニヤ…」  やはりそのことらしい。どうやら僕はロウの前では素直になってしまうようだ。だって、天使には、古い付き合いでもないと、「無表情すぎて考えていることがわからなくて怖い」と口をそろえて言われる。一時期氷王というあだ名があったくらいだ。結構笑っていたこともあったのに。まあ、幼馴染にそれを言ったら、「お前は笑っているつもりでも、表情筋がほとんど動いてないんだよ。」と返されたが。…解せない。それとも、ロウがただ敏いだけなのか。 「ごめんって。だってロウの喜ぶ顔があまりにも可愛くて、つい。」  素直に思ったことを口にだすと、 「かわっいくない!!」  ゴッ。鳩尾を強く肘で打たれた。 「いっった!ひどいよロウ!」 「うるさいっ。」  バタッ。そう言って手近な部屋に籠ってしまったロウは、耳まで真っ赤になっていた。 「ローウ。そんなに拗ねないで、もう出てきて?ごはん冷めちゃうよ。早く食べよう?…それとも、天使の作ったごはんなんて、食べる気になれない?」  扉越しに、恐らく中で布団にくるまっているであろうロウへと話しかける。 「そっんなこと、は、ない。」  少し焦ったような声で、ボソッと僕の問いへの否定が聞こえた。 「じゃあ、ごはん、一緒に食べよう?今日はロウの好きなハンバーグだよ。」  また、扉の向こうへと話しかける。 「…チーズは?」 「もちろん入ってるよ!」  小さく開いた扉から覗くその顔に、笑顔で答える。 「じゃあ、食べる。」  そーっと出てきたロウの表情は、笑っていた。 「美味しい?」 「…うん。」 「そっか、よかった。」  ロウは、ハンバーグを小さく切り分けながら、美味しそうに口へと運んでいる。気付いているのかどうかは知らないが、口に含む度に、頬が緩んでいる。 「…なんだよ。人の事ジロジロ見て。」  ロウが僕を少し睨んでそう言う。むすっとしていて、すこし頬を膨らませているのがまた可愛い。 (あんまり誰とも話してなかったからかな。庇護欲が湧く。)  心の中でそう呟いたが、口には出さない。もし口に出してしまったらきっと、「俺はそんな弱くないっ!」と言って、怒られるだろう。ロウの肘打ちは、けっこう痛い。出来ればもう食らいたくない。うん。 「ごめん。何でもないよ。」  表情を崩して謝る。きっと、笑みが含まれていたのだと思う。まだ少し、ロウがむくれている。 「ごめんって。」  頬を膨らませて睨み付けてくるロウの頭をなでる。 「…別に、怒ってない。」  すると、ロウは頬をしぼませ視線を下に落として、身をまかせてくる。お皿の上のごはんは、もう空だった。 「そっか、よかった。ありがとう。」  ふっと、頬が緩む。笑みが溢れて、零れる。 「何で礼なんか言うんだよ。」  ロウが上目遣いでこちらを見つめてくる。まあ、角度的にしょうがないんだけど。 「何となくかな。」 (本当、何でなのかな。)  僕はロウと初めて出会って、助けたときのように、少しだけ頬を緩ませて、笑った。

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