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第5話 記憶<寂しがり>

 そして、僕とロウが暮らし始めてから、四年がたった。 「中学校?」  僕はロウに、人間たちが通う学校に行ってみるかどうかを尋ねていた。 「うん、そう。中学校。」 「俺が通うのか?その、人間たちが通っている学校に?」  ロウが、心底意味が解らないという顔で僕を見る。ついでに、首も傾げている。 「うん。人間界で暮らしていくなら、ある程度の知識があった方がいいだろうし、学校なら、一定の知識をつけてくれるからね。どう?」  首をかしげているロウに、笑顔で尋ねる。 「…行く。その方がいいんだろ?俺たちにとって。」  ロウは、少し寂しそうに、まだ納得いかなさそうにボソッと答える。その仕草には、まだ子供の頃の面影があり、自然と顔が綻ぶ。 「うん。それに、ロウが同年代の友人を作るいい機会だしね。」  ロウは十二歳。人間ではないもののまだ同世代が同じくらいの見た目でいる期間だ。 「でも、その同世代の奴らって人間だろ。」  ロウはそれと少し間を開けて、 「俺たちとは生きている時間が違う。下手に情が移っても辛いだけじゃないか?」  と言う。 (友達になれることは否定しないんだ。)  どうやら、人が信用できない訳ではないらしい。 「それでも、人間の知識は身に着けておいたほうがいいし、もう変化の魔法使えるでしょ?それに、そうだとしても利用できるものは利用しなくちゃ。」  天使が人を「利用」なんて、引かれるだろうか。少なくとも、人間は落胆するだろう。もしくは、焦がれる。「だましやがったな、この悪魔めっ!」「天使様、どうか私を使ってください。」そんなセリフが、容易に想像できる。人は、愚かな生き物だから。 (いや、人も神も悪魔も天使も、そう大差ないか。) 「…分かった。学校、行くよ。その方が都合がいいんだろ?」  しばらくして、ロウはそう決断した。 「うん。候補はいくつかあるんだけど、何か希望ある?」  あらかじめまとめてあった資料を棚から取り出してロウの前に並べてみせる。 「…この霧ケ峰中学校にがいい。設備がしっかりとしているし、言語学習や専門事業の研修も多い。どうせ学校に行くのなら、より多くの知識と価値観が欲しい。どうだ?」  ロウは、情報をより正確に分析し、述べる。さすがロウだ。資料結構な数あったのに(一部で30枚くらいだよ)。 「うん、そうだね。じゃあ、ここで話を進めておくよ。」  そう言って、僕は自室に戻ろ…うとした。が、 「…どうしたの?ロウ。」  後ろからロウに抱き着かれて、それは叶わなかった。 「…何でもない。」  尋ねた答えが「何でもない」なのに、どうして身体はがっちりと固定されたままなんだろう。 「でも、もう少しこうさせて。」 (そっか、寂しいのか。) 「いいよ。」  珍しくロウが甘えてきたので、しばらくは好きなようにさせておくことにした。

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