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第6話 記憶<虚像>
「じゃ、行ってくる。」
「うん、いってらっしゃい。」
ロウが選んだ学校は私立で受験が必要だったのだが、ある程度勉強を教えていた上本人の吸収率が非常に高く、なんと首席で突破した。さすがロウ。うちの子スゴイ。
「…静かだなあ。」
誰もいなくなった空間に、ぽつりと呟く。
「確かに、寂しくなるかもなあ。」
ロウがでていくと、温かかった空間が途端に無機質なものへと変化する。物体の冷たさや空気の温度が、より鮮明に感覚として捉えられる。例えるなら、春の暖かい陽気に包まれた花畑や草原から、冬の冷え切ったコンクリートの部屋の中へと移されたような。
「いつの間に、あんなに大きくなったんだろう。」
最初はもっと小さくて、少し力を加えたら殺せるくらいに弱かったのに。
「今では力が溢れそうだから抑える方法教えてくれ、だもんね。しかも、すぐにコツ掴んでたし。」
(子供って、成長するの速いんだなあ。)
そんなまるで父親のような思考に苦笑する。
「父親、か。そんなもの、見たことないな。気づいたら存在していただけだったし。」
(本の中の父親なら、いくらでも知っているし、模倣できるのに。)
姿も、形も、声も、性格も、技術も。所詮は神が気まぐれに決まりを作り、与えただけにほかならない。
「でも、僕あの人(?)好きじゃないんだよね。」
一時期慰み者にされてから、どうも好きになれない。あれだけ尊敬していた、憧れの存在だったというのに。
「…嫌な事思い出しちゃった。」
(あの人にとって僕はそこまで大切な存在じゃなかったから、多分追手は来てないんだろうな。)
ただの、性処理道具。キリスト教では色欲は罪になるらしいが、いったい誰が罰するというのだろう。罰する存在がそれを犯しているというのに。
「…あほらし。」
傲慢も、憤怒も、嫉妬も、怠惰も、強欲も、暴食も、色欲も。それぞれの悪魔がいるにしても、やっていることはたいして変わらない。ただ、仕事が違うだけ。喰らうか、輪廻に還すか。それだけ。天使にも、神にも、悪魔にも、欲望は存在する。だから、姿形が違うくらいで、実態は何の変わりもない。
「何で人間はあんなに僕たちを崇拝するんだろ。」
理想像だけが立派に組みあがっていて、中身を何も引っ張り出せていない。実像を知らないからこそなのだろうが。
「結局虚像しかできあがってないんだよねぇ。」
虚ろで、空っぽなものを何十、何百、何千年と崇め続けているのは素直に尊敬する。
「さ、僕も準備しなくちゃ。」
なんたって、息子(?)の晴れ舞台だからね。
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