7 / 27

第7話 記憶<愛しい人・ロウ>

「これより、霧ケ峰中学校の入学式を始めます。一同、礼。」  その声と共に、入学式が始まる。これで本当にレイと離れ離れだ。くそ。全寮制じゃなかったから妥協したものの、やはり不満が残る。 (レイは、寂しかったりしないのかな。)  ぽつり。心に残った不満が、不安が静かに広がる。 「入学生代表式辞、黒崎狼。」 「はい。」  考え事をしているうちに、それなりに時間が経っていたようだ。式辞で自分の名前が呼ばれ、前へと出る。 「うららかな春の日差しを感じる今日この頃、この霧ケ峰中学校に入学できましたこと、とても嬉しく思います。保護者の皆様も、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます。さて、本日を以って、私たちはこの学校で共に学び合い、競い合う仲間となります。ここに集まることができた皆さんと、この学校で楽しい思い出が作れることを楽しみにしています。入学生代表式辞、黒崎狼。」 パチパチパチ。拍手が起こる。俺は一度礼をして席へと戻った。 「式辞、お疲れ様。」 「…誰だ?」  隣のに座っている奴が、急に話しかけてきた。名前は…知らない。そもそもレイ以外にあまり興味がわかない。だから覚える気もなかった。 「小泉敦人だよ。黒崎狼クン?」  馴れ馴れしく名前を呼んでくるそいつに、あまりいい印象は抱かなかった。 「で、何の用?」  小泉敦人とやらに返す。 「いや、ただ、同じクラスの首席様と仲良くしておこうかと思って。」  妖しい笑みをその唇にうっすらと浮かべて、妖艶に囁く。 「そうか。じゃあ、またクラスでな。」  レイ以外の奴のことなんかどうでもいい。小泉に軽く返すと、即座に意識をレイが座っている席へとむけた。視覚的情報がなくても、存在は十分に感じることができる。 (レイ……)  世界なんてどうでもいい。レイさえいれば、俺はそれでいい。 (…この感情は、なんだ?) 「……」  自分の世界に入り込んでいた俺を、小泉は興味深そうに見つめ続けていた。  退屈な入学式が終わりを告げげ、各教室への移動が始まった。 「…レイ。」  ぽつり。優しい笑顔をした天使が、頭の中に浮かぶ。 「それって恋人?」  呟きを耳に入れた男…小泉が、笑顔で話しかけてきた。 「お前には関係ないだろ。」  素っ気なく、適当に返事をする。 「好きなんでしょ?式中、ずっと何かに集中してたよね。」  意識をレイに向けていたのに気が付いていたようだ。心の読めない不気味な笑みを貼り付けたまま、小泉は語り続ける。 「それって今君が呟いてたレイってひとにだよね。早くしないと、誰かに盗られちゃうよ?綺麗な人だね。」 「………。」  どうやらレイを視認したらしい。俺が意識を向けていた相手の位置を特定してそのうえ視認するなんていう芸当、普通はできないはず。まさか、レイの追手(魔界の奴らは俺を捨てたのだから、そもそも追ってくる理由がない)…いや、断定するにはまだ早い。天使や悪魔の中には人間としての顔を持っている輩もいると聞く(レイからの情報だから間違いない)。 「…それで?お前が俺に接触する理由はなんだ。」  式中にも似たことを訊いたが、もう一度尋ねる。 「言ったでしょ。首席様と仲良くしておこうと思ってって。そのほうが、僕も動きやすいし。」 「動きやすい…?」  不穏な気配を漂わせるその言葉に顔をしかめる。 「あーごめん。失言だったかも。いやまあその通りなんだけどね。危害を加えるつもりはないっていうのは伝えておこうかな。」   危害…?なぜ一般の人間がそんな言葉を使う?そもそもこいつは人間か?追手ではないにしても使う言葉が不自然すぎる。おかしい。言い回しも引っかかる。 「お前、人間か?」  「人間」に使うにはあまりにも不自然な言葉をかけてみる。いや一般の人間が使うにしても不自然なのだが。これはカマかけだ。相手の表情を、筋肉の動きを、汗の量を、心拍数を視て、正否を確認する。結果は…・ 「…違うよ。僕は人間だ。」  こいつは、人間じゃない。悪魔か天使かまでは判別できないがこいつは、 (小泉は…異形の類だ。)

ともだちにシェアしよう!