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第13話 記憶<切れる糸 ロウ>
「そろそろ離れ時かなあ。」
レイの部屋の前を通った時、確かにそう聞こえた。
(……え?)
耳を疑った。聞き間違いだと思った。でも、すぐにそうではないのだと冷静になった。扉の前で耳を澄まして、中の音を聞く。
「…く来てよ、ミカエル。」
あまりよく聞こえなかったが、最後、その部分だけははっきりと聞こえた。
「は…?」
ミカエルとは誰のことだろうか。恋人だろうか。友人だろうか。
いや、そんなことよりも、
「離れる…?」
俺から、レイが?
「そんなの、だめだ。」
だめ。だめ。そんなことは許さない。俺からレイが離れていくなんて、あってはならない。
「そんなこと、許さない。」
気づくと、レイの部屋の扉は開いていた。
「へ、ロウ?どうしたの?何かあった?」
レイがいつものような優しい笑みを浮かべて近づいてくる。
「………。」
俺はそんなレイに噛みつき、ベッドへと押し倒した。
(俺から離れようとなんてするなら、忘れられない痕を残してやる。)
渦巻いた毒が、今、身体中に廻った。
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