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第19話 独り言 ルーシュ
「 っ。あ゛っ。」
同胞が魔物に喰われていく様を静かに見つめる。喰われているのは、レイ・アステリアス。俺と同じでロイ様に創られた天使だ。白銀の髪に夜空のような深い青の瞳。華奢な身体に女性と見紛うような容姿は、天使の中でも誰もが息を飲むような美しさを持っていた。出会いは、いつだっただろう。確か、生まれて10年ほど経った頃、ロキ様が紹介して下さったのが初めてだった。
「ルーシュ、紹介するね♪君と同じで僕が創った天使のレイだよ♪別に仲良くしてあげなくていいからね♪よろしくね♪」
「…レイ・アステリアスです。」
空虚な瞳でこちらを見つめるその少年は、恐ろしいほどの美しさを持っていた。
「ルーシュ・アルマリズム。」
その時は名前だけを明かし、一言も話さずに終わった。
次に会ったのは、屋敷の雑務や書類の整理などを手伝うようになってからだった。
「…そこで何してるんだ?」
廊下からすぐに出られる中庭の木の幹で眠っていたレイに声をかけた。
「何って…休憩かな。」
相変わらず瞳は何も映していないように暗いが、前回よりも気配に心が見えた。
「そっちは何してるの?」
手に持っていた本の山を覗き込んでいるのか、木の幹から身を乗り出している。
「この本を書庫に持っていくようにいわれたから、書庫に行く途中。」
手に積んでいた本を少し上に持ち上げて見せる。
「そうなんだ。」
少し疲弊したようにそう言って、レイは再び木の幹に横たわり眠たりだした。
その次に会ったのは、正確に言うと見たのは、ある神の神殿に使いで訪れた時だった。
「ん゛ん゛ん゛っ。」
悲鳴のような声が、一室から聞こえた。
「煩い、黙れ。」
悲鳴はレイの声だった。それに対して聞こえる冷酷な声は、誰のものだっただろう。
「……!」
そっと扉を開いて覗くと、そこには轡 をされ、身体中を拘束具で固定され犯されているレイと、その身体に欲望を吐き出し続ける何かがいた。
「 っ。んんっ。」
ぼろぼろと涙を零し泣いているレイを見ても、俺はただその場に立ちつくすことしかできなかった。
その後、幾度もそんな場面を見かけた。ロキ様と交わっているところを、四肢を抉られ痛めつけられているところを。何度も、何度も。一度ロキ様に尋ねてみると、「んー?もともとあの子は僕が遊ぶために創ったんだけど、思った以上に綺麗にできたから汚しちゃおうかなっておもったんだよね♪泣き顔も怒った顔も苦しんでる顔も、思った通りすごく可愛いんだ♪だからみんなにもおすそわけしてあげたの♪」と返ってきた。
(これは、罰だ。)
そう、これは罰だ。悪魔と縁を持ち、育てたレイへの罰。理不尽な暴力ではない。虐殺ではない。当然のこと。
「俺は、間違ってなどいない。」
虚空に落ちた音は、誰にも拾われることはなかった。
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