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第20話 魔界での生活 ロウ

「あー、面倒くさい。」  一度は俺を捨てた魔界の生き物たちは、「魔王が直々に連れてきた俺」という存在に興味が尽きないらしく、日々決闘やら手合わせやらを求められていた。 「………。」  きっと、俺がこんな風にだらだらと時間を過ぎさせている中、天界でレイは痛めつけられ苦しめられているのだろう。 「レイ……」  足りない。足りない。力が。全てが。 (早く、取り戻さないと。)  壊されて、崩されて、バラバラにされてしまう前に。 「………。」 「ローウーくーん!」  考え込んでいると、空から声が降ってきた。 「ヴィネ……」  空間の狭間から顔を出すそれは、こちらに来てからそれなりに早く顔を合わせた魔族であるヴィネだった。 「何故お前がここに?内乱を潰しに行っている筈だが。」  ヴィネは今日、ヴィネの統治領で起こった内乱を鎮めに行っている筈だった。 「そんなものとっくに終わったよ。」  僕のこと、そんなに弱いと思ってるの、とぷっくりと頬を膨らませて腕をぶんぶんと振りおろしてくる。 「じゃ、今から魔王様のとこに報告行ってくるねー!じゃ、ばいばい。」  しばらく腕を振り続けた後、ひょいと狭間に潜って、そのまま去っていった。 「…何がしたかったんだあいつは。」  空間の狭間…。時空に近いそれを強制的に開く力があれば、天界も開けるだろうか。 「狭間を裂けるのならば、時空も裂けるかも、とか考えてない?」 「!」  再び、空から声が降ってくる。 「…魔王か。」  立場上の主。絶対的な力の持ち主。 「可能性としてはあるけど、難易度が違いすぎるよ。完全に閉じた時空を無理矢理抉じ開けるのと、そもそも開きかけている扉の隙間に入り込むのとはかかる負担が段違いだ。そもそも、天界にルーツを持っていないといけないのは、天界の扉の鍵にあたるものを宿していないとその負担に耐えられないからなんだよ?」  呆れ半分で溜息をつきながらそう諭される。 「…負担が大きいのは分かってる。」  分かっている、そんなことは。天界にルーツを持っていない限りなんて条件がついている時点で予想はついていた。 「いいや、分かってない。いい?今は君それなりに強くなってるから灰になりまではしないと思うけどね、それでも四肢が千切れて再生できないくらいまではボロボロになるんだからね。」  魔王が宙に人形を浮かせて操りながら、そう言う。 「ていうか、抉じ開けられたとしてもそんな傷負ってたら神には勝てないからね、君は。」  君は、ということは、こいつは勝てるのだろう。もしくは、目的を達成できるということか。 「わかってる。だから、力が必要なんだ。もっと、もっと。」  力が。大切なものを守ることのできる力が。大切なものに手を伸ばしてくる輩全てを屠る力が。 「…いいね、その眼。俺君がそういう眼してるの好きだよ。力を欲して、渇望している眼。まるで飢えた獣みたいだ。」  楽しそうに、魔王がニタリと笑う。 「………。」  まるで幼い子供が何か面白い悪戯を思いついたようなその笑みの意図を、俺は知らない。  それがたとえばどんな波乱や騒動の幕開けとなるものだったとしても。

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