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第21話 悪戯と転期 ルシファー
「ふふっ。」
跳ねるようにして時空を駆ける。
「見ぃつけたっ!」
天界への扉に鍵をかざして開ける。
「天界の皆さん、こんにちはー!!」
開いた扉から天の地を見下ろし、叫ぶ。居る者全てがこちらを向く。
「レイっていう白銀の髪に深い青の瞳した天使探してるんだけど、どこにいるか知ってるー?」
教えてくれないことなど分かり切っているが、おちょくるのも楽しいので尋ねる。
「んー?みんな教えてくれないのー?じゃあ…」
瘴気を一帯にばら撒く。
「勝手に視せてもらうね?」
瘴気に触れた天使たちは皆穢れ、侵されていく。下級悪魔や魔物程度の瘴気ならばどれほどに力の弱い天使でも大抵は浄化できるが、今回は俺が相手だ。そう簡単に浄化できるものではない。おそらく完全に浄化しきれるのはミカエルぐらいのものなのではないだろうか。
「ふむ、なるほど。ロキのところにいるのか。相変わらず趣味の悪い神サマだなあ。」
(創った天使を玩具にして、慰み者にする、なんてね。しかも心や自由意志を残したまま。)
心が壊れるのは、ある種の限界を越して、これ以上思考を持っていると危険だと魂が判断するからだ。それを無理矢理捻じ曲げて正常な思考を保たせるなんて、趣味が悪いとしか言いようがない。
「ふふ。ロウ、驚くだろうな。それとも怒るかな?」
ロウは面白い。拾った時は到底神には敵わない、俺にすら敵わないほど弱かったのに、今では俺と互角に近く、神の領域にすら近い力をつけた。成長が今から楽しみで仕方がない。
(いつか、魔王の座を奪われちゃったりして。)
いいや、きっとロウはそんなことはしない。だって、ロウは魔王の座になんて興味がないから。俺が彼の大切な天使に危害を加えたりしない限りはないだろう。まあ、いつか無理矢理にでも座は押し付けるつもりだけど。
「回収したら、定期的にちょっかい出しておこう。」
だって、そっちの方が楽しそうだ。
「お、みーっけ。」
記憶の中で視た屋敷の奥深くに天使の気配を見つける。気配は二つ。一つは、知らないもの。もう一つは、ロウの周りに強く濃くついた護りと同じ気配。下級の者や魔物は実力の差が大きすぎたのか気付いていないようだったが。
「こーんにーちはっ。初めまして二人とも。ね、君がレイ?」
狭間から地下へと繋ぎ、気配のある部屋へと出る。そこには、魔界に居る筈の魔物に皮膚を喰い破られている天使と、それを静かに見つめている天使がいた。双方突然の魔の出現に驚いている。
「貴様、何者だ。何故ここに居る。」
同胞が喰われる姿を静観していた天使が問いかけてくる。
(まあ、魔王なんて見る機会ないだろうし、気付かないか。でも、普通に気配から察せないのかな。阿呆すぎない?)
一方でレイと思われる天使は気配で正体に察しをつけたのか、静かにこちらの動きを観察している。
「あはは、面白い事訊くね。気配で察せない?俺はね、天界史上最悪の裏切り者で大罪人、ルシファー。地に堕とされ神の領域にも近い力を手にした大悪魔だよ。」
闇の濃い階層 へと堕とされ、その中で生きるための力をつけたらそこまで強くなってただけだけれどね。
「なっ!」
「………。」
相変わらずレイはこちらを静かに観察している。ただ、この間もずっと魔獣に喰われ続けられているのに、だ。悲鳴一つ上げず、そしてこちらから眼をそらさない。
「ま、俺はただレイを回収しに来ただけだから、放っておいてね。ま、どうせ君じゃあ敵わないし。」
こちらを睨みつけてくる天使を横目に、レイへと近づく。それと同時に、レイを喰らっていた魔物たちが魔界へと還る。
「うん、視た通り綺麗な顔してるんだね、君。」
白銀の髪に、夜を思わせる青の瞳。血で塗れているものの、その美しさは衰えていないようだ。寧ろ血の赤が白い肌や髪によく映える。
「さっき紹介した通り、俺はルシファー。よろしくね、レイ。」
レイの身体を抱き上げ、笑顔で話しかける。
「…ロウのこと、大切にしてくれているんですね。ありがとうございます。」
予想外にも、ロウを拾ったことに礼をされた。どうやら、この天使はこの一瞬で俺の記憶を視たらしい。俺の記憶を気付かれることなく視れる奴はそうそういない。どうやら、レイは天使の中でもかなりの力を持っているようだ。
「どうも。じゃ、今から君を家に連れて帰るから。因みに強制ね。」
(これから楽しくなりそうだな。)
魔王と聞き力を自覚してか動けないでいる天使を放って、時空から魔界へと帰還した。
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