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第22話 誘拐

(これからどうされるんだろう。)  創造主に連れ戻されたかと思ったら今度は魔王に回収されている。何なんだ。 「混乱しているね。大丈夫だよ、危害を加えるつもりはないから安心して。」  安心も何もないだろう。天界に行けば躰と魂を弄ばれ、魔界へと行けば食いつぶされ貪られる。そこに僕の意志は関係しない。ただ、それだけのことだ。 「………。」  ついさっきまで力を封じられ躰を引き裂かれていたせいか、身体に力が入らない。指に、腕に、脚に。力を入れることができない。 「はい、着いた。」  視界が、広い浴室のようなところへと切り替わる。 「さ、傷を治してあげよう。血も綺麗に落そうか。」  魔王の手に光が宿る。 「………。」  傷が、修復していく。 「血も落とすね~。」  浴槽に入っていたお湯が宙に浮き、肌を撫で血を溶かしていく。 「………。」  視線を動かして辺りを見回す。広い浴室に出口は無く、狭間や時空を経由して入る造りのようだ。 「新しい服をあげようか。ずっと裸じゃ嫌だよね。」  その言葉と同時に、肌に布が触れる。 「………。」  白い女性が着るドレスのようなもの。ドレスと言っても、布を何重にも重ねたようなものではなく、布を纏うようなものだが。 「!」  再び視界が切り替わり、今度は誰かの寝室のような場所へと移る。 「…綺麗。」  突如、魔王の瞳が赤く怪しく光る。 「………?」  力の入らない躰をすとんとベッドへと倒される。 「ちょっとぐらい味見してもいいよね。」  胸の方に手をあてられる。 「いただきます。」 「…ぁあっ!?」  その言葉と同時に、魂が侵される気配に躰が跳ねた。 「ぅっ。あっ。ぁあっ。」  魂のある領域に他者が侵入してくる感覚。気持ち悪くて、痛い。久しい感覚だ。 「 っ。ぅあ。んんっ。」  ああ、まずい。魂に、入り込まれ… 「ひっ。」  魂に、魔王の指が挿しこまれる。ナカに捻じ込まれ、掻き混ぜられる。 「 ぁっ。んんんっ。ああっ。ふっ。」  生理的な拒否反応で、眼から涙が零れる。 「ふふ。かわいい。それに…」  魔王が意地の悪い笑みを浮かべてこちらを見下ろす。 「 ぁああっ。」  魂をぐちゅりと掻かれる。 「ふふっ。悪趣味だとか散々言ってたけど、これは確かにそそられるなあ。」 (そりゃあ、お前らも含め、結局僕は玩具になるために創られたんだから、そうだろう。)  魂を、肉体を弄られ、犯され、壊されて。玩具の性能には随分と満足してくれたようだ。 「………。」  ロウが引き取られていたのなら当然と言えば当然なのだが、ロウの気配がする。 「………?」  どうしてか、段々と気配が近づいてくる。 「おい魔王!何故お前の部屋からレイの気配がす…」  驚いた顔のロウが、勢いよく開いた扉から見える。 「……ロウ?」 でも、それはすぐに怒りへと変わった。 「おい、お前…」  ロウが魔王へと拳を振り下ろす。 「あっは。」  魔王はそれを楽しそうに躱す。 「!」  気づくと、ロウの腕の中に躰が収まっていた。離れた時と同じ。真っ赤な瞳を光らせている。今度は怒っているところが大きいようだが。でも、ああ、嬉しい。もう二度と、会うことはできないだろうと思っていたのに。 「久しぶり、ロウ。」  まさか、再びその姿を臨むことができるなんて。言葉を交わせる距離まで近付けるなんて。触れることができるなんて。 「会いたかったよ、ずっと。」  疲弊しきった魂は、そこで意識を手放した。 「レイ?レイ!」  どこかで、愛しい悪魔の少し低くなった声が聞こえた。

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