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第26話 悪夢と独白
痛い。痛い。痛い。杭で貫かれた手足が、魔物に貪られ皮膚を引き裂かれた場所が、打ちつけられた首が。
「ぐ…ぁ…」
痛い。苦しい。辛い。慣れただなんて気が狂わないように理性を繋ぎ止めるためだけの強がりだ。痛みが、苦しみが変わるわけではない。無くなるわけでもない。痛い。痛い。痛い。
「ぁ…」
身を蝕む痛みに喘ぐ。嗚呼痛い。痛い。痛い。
「ぁ…うう…」
痛い。痛い。痛い。
「ふぅ…ううう…」
絶えず癒えない痛みに、生理的な涙が頬を伝って垂れる。
「ううぅ…」
ああ嫌だ。嫌いだ。痛みも、それを与える神々も、創造主も。そしてそれを思いながら抗うことのできない僕も。
(痛いよ、ロウ…)
「!!!!!」
無意識に心の中で名前が零れると同時に、その夢は終わった。
「……夢?」
夢。そう、夢。だけど確かにあった痛みの記憶。
「……ロウ?」
隣にあったはずの気配が無くて、部屋を見回して傍にいるはずの悪魔の姿を探す。
「そっか。仕事に行ったんだっけ。」
眠る前に交わした会話を思いだす。
「立派に、育ってくれたんだなぁ。」
こんな僕に心を開いてくれた優しい子。愛しい子。
「僕はもう、いらないかな。」
ふと、そんなことを思う。
「もう、ひとりで生きていけるんだよね。」
僕の庇護が必要だったあの頃とは違う。睡眠障害とか色々な障害はあったようだが、それでも僕が必要不可欠な訳ではない。だって、睡眠程度なら魔法でどうとでもなるから。
「こんなんじゃ、また連れ戻されちゃう。」
少しでも弱味を見せたら、付け入られる。夢にまで介入されて、現実と二重苦で責めてくるだろう。
「それは、嫌だなぁ。」
そんなことを呟きながら、無意識にロウの匂いが色濃く残っているシーツを手繰り寄せ抱きしめる。
「一緒に、いたいなぁ。」
あの子の隣は、居心地がいい。息が、しやすい。
「...いや、違うか。」
(あの子がいるから、僕は息ができるんだ。)
いつの間にか根をはって、僕の中で大きくなっていった存在。いつの間にか僕の世界そのものになっていた存在。僕が生きるただ一つの意味。
「ふふっ。」
可笑しくて、つい笑ってしまう。
「あんな小さかった悪魔一人に絆されたんだな、僕は。」
あんな、一人にしていては死んでしまいそうな程に弱く、小さかったあの子に。
僕は、確かに救われたんだ。あの日、あの時、あの場所で出会ったことをきっかけに。
「離れたく、ないなぁ。」
(どうか、どうか、まだもう少し傍にいられますように。)
そう願いながら、再び意識を手放した。
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