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第2話

 ※ ※ ※  本当に八百文字にまとめようとまとめなかろうと、それで少しは冷静になってこのくだらない件を考えるだろう、という藤代の目論見はあっさりと費えた。  翌日。 「先生! 八百文字にまとめてきました!」  息せき切って手渡してきたのは、四百字詰め原稿用紙二枚。丁寧に手書きの文字が並んでいる。意外に字が綺麗だった。……じゃなくて、本当にまとめてきたのか。  藤代は半笑いになった。この長い人生上で、こんなに無意味な前向きさは見たことがない。  手渡されたので、仕方なく、原稿用紙に目を落とす。……やっぱり、意外にも字が綺麗だ。何となく、納得がいかない。 「あっ、字が汚くて読みづらいですかね? ちゃんと下書きやって清書したんですけど。あの、どうですかね? 最初十枚ぐらいになってしまって、頑張って削ったりまとめたりしてみたんですけど、どうですかね?」 「…………」  げんなりしてきた。  玉井はそわそわそわそわ落ち着かなく笑ったり頭をかいたりしている。その様子は、まさに恥らうピュアボーイ……本当にこれは何かの間違いではないのか……。  『私が藤代先生を好きな理由は、……』  最初の一行目で脳が読むことを拒否した。 「藤代先生、なんかこれって、ラブレターみたいですよね? 俺の思いのたけをですね、こう圧縮して濃縮して書き尽くした感があります。ハハハ、論述問題なんて数年ぶりですよー。おかげで深夜までかかってしまいました」  言われて見れば、玉井のきっちりした二重まぶたが今日は少し大きい。眠たいのだろう。  藤代は、渡された原稿用紙をぱたん、と机に置いた。 「十点」 「えっ、十点ですか! あの、それは何点満点ですかね……」 「八十点満点中十点」 「低!?」  衝撃を受けた顔をして、がっくりとうなだれる。書き上げた原稿を手にとって、どこが悪かったのだろうと見返している。さすがの玉井もこれにへこたれて、こんなくだらないことに時間を割けるかと目を覚ま…… 「分かりました! 書き直してきます! 俺、レポート提出も十回ぐらい再提出くらいましたけど、最後にはちゃんと通った実績があります!」  ……目を覚まさなかった。  しかも、十回もの再提出の末、ようやく通るというのは、おまけの合格ではないのだろうか……。 「ところで、論述で八十点満点だとすると、残りの二十点は……」 「ああ……そうだね。ええと、平常点だね」  特に考えていたわけでもなかったので、適当に言う。しかし玉井はこれも真に受けたらしかった。 「分かりました! ちゃんと明日も提出します!」 「………………」  額に手を当てて、ため息をつく。  墓穴を掘った気もしないでもない。

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