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第3話
※ ※ ※
「藤代先生! まとめてきました! 読んでください!」
「十五点」
「藤代先生! 今度は論点を変えて書きました!」
「二十点」
「藤代先生、今度こそ!」
「……三十点」
「ちょっと点数があがってきましたね! この調子ということですね! またまとめてきました! よろしくお願いします!」
「…………四十点」
何かが間違っている。
おかしい、これではほぼ毎日、顔をあわせているということになってしまう。
「藤代先生! 今日もまとめてきました! 今度こそ本当の力作です!」
今日も今日とて、元気に玉井がやってきた。
その顔はかなり眠そうだ。また夜中までかかって原稿用紙にまとめてきたのだろう。よっぽど論述が苦手らしく、連日深夜までかかっているらしい。今日は朝の会議で、こっくりこっくりやっていたのを教頭の嫌味で起こされていた。
ここまでくると、さすがの藤代も玉井がかわいそうになってくる。
そもそも、こんな真剣になるようなことでもないのだ。随分年上の偏屈に執着するのをやめて、ほかに目を向けさえすれば。
「……頑張るね」
「はい! 粘り強いのだけがとりえですから! 教師になる前、就職活動で二百社受けて落ちましたが二百一社目で準正社員のバイトとして拾ってもらった経歴があります!」
……それは試験官が同情したのではないだろうか……。
玉井はあくびをした。あわてて、かみ殺そうとしたようだったが、タイミングが合わずに大きなあくびをしてしまう。
「す、すみません……失礼ですね」
「朝も教頭に言われていただろう。空き時間があるなら、更衣室で少し横になったらどうだね」
「えっ、ここで寝ていいんですか!」
「人の話をきちんと聞きなさい……」
まったく、これでは生徒と変わらない。二十歳も過ぎた男がこれとは、情けないにもほどがある。
しかし──
寝不足の原因の一旦を担っているのは間違いなく、藤代の宿題のせいだ。それを思うと、いつものように邪険に扱うのも気が引ける。
そもそも──
藤代は、呆れた顔をして丸眼鏡を指で押し上げながら、玉井を見た。
「そもそも、君は、私のどこがそんなにいいのかね」
「え」
玉井がぽかんとする。
藤代はどうかしたのかとかすかに首を傾げた。
玉井は、ははは、と笑った。
「……なんだ。藤代先生、俺の論述回答読んでないんですか──」
──あ。
ああ、そうだ。……そうだった。
藤代は、自分の失言に気がついた。
「いや、そうじゃないね。そうじゃない。そうじゃなくて」
「いいんです、それってつまり、先生に読んでもらえる様なものが書けてなかったってことですから! 大丈夫です、平気です!」
玉井は笑っている。笑っているが、どこかぎこちないのは、いくら偏屈な藤代にも分かった。
玉井は連日連夜、何故自分が好きなのかということをまとめてきていたのだ。他ならない、藤代本人から出題されて。
だが、実際のところ、藤代は玉井の回答をろくに読んでいなかった。……大体、こんな、ラブレターみたいなものをじっくり読むなんて、四十もとうに超えた自分にはかなりきつい──
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