4 / 5

第4話

「じゃあ、また明日……明日も持ってきますから。そのときはよろしくお願いします……」  ふらふらしながら、玉井が準備室を出て行った。  眠気でふらふらしているのか、ショックでふらふらしているのか分からない。ただ準備室から出て行くときに、棚にぶつかってよろめいたのがなんとも哀れだった。  ……しまったな。  口元に手を当てて、自分の失言を後悔する。  いくら偏屈で、頑固で、人嫌いな自分でも、後悔しないわけがない。玉井は、睡眠時間すら削って、必死に回答を作ってきているのに。  机の上には、玉井が忘れていった原稿用紙がある。いつもは持って帰るのに、今日は持って帰るのを忘れてしまっている。それだけ心に余裕がなかったということなのか……  ──私に一体どうしろというんだ。  苛立たしいのか、腹立たしいのか、とにかくお門違いな焦燥感に駆られながら、机の上の原稿を手にとる。  そこには、相変わらず、綺麗な文字が並んでいた。  ……理由は、たくさんある。そのうちの数点、特に重要だと思われるものを挙げたい。  ・白衣が似合う  ・横顔が知的で才気走っている  ・指の関節が出ているところがセクシーである  ・見透かすような迫力のある目  ・耳の形  しかしながら、これらはすべて容姿に限った点である。ビジュアル的な要素は、初見の印象に大きく影響するが、それらだけではこの論述を完成しえない。何より重要なのは、その内面的な要素である。  外面的な要素と内面的な要素は密接に関係し、その関係性を説明することは、論述を論述足らしめるにもっとも重要だと考える。  では、私の思う内面的な要素を列挙していく。  ・仕事に対してとても真剣  ・受け入れられないとしながらも、同性愛を伝える私に激しい嫌悪を見せずに接する  ・度重なるアプローチにも嫌悪の念を見せない  ・早合点しがちな私を切り捨てることなく根気よく説明してくれる  ・会話してくれる  ・やさしい  ・相手してくれる  ・きれい  ・  ……最後のほうの記述列挙、力尽きた感じが漂っているな。  藤代は頭に手を当てて、長いため息をひとつ、ついた。

ともだちにシェアしよう!