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第19話
翌日シバはすっかり元気になったようで
早く起きて
いや、多分昨日寝すぎてそんな寝れなかったのだろう
俺が起きる頃は普通にリビングでくつろいでいた
『なぁ、仕事行くの?』
「いかね。今日も休む」
『ふーん』
と、歯を磨いている俺の後ろをついて歩く
「なんだよ」
『別に』
と、あまりにも着いてくるから聞いてみると
そう言い残し
リビングのソファの定位置に戻る
『なんかDVD見ていい?』
「勝手に見れば」
と、言うと
勝手に選び操作をしだした
「お前、一人で家いた時何してたの?」
『別になんも。テレビみたりDVDみたり。みなちゃんと話したり』
「ふーん」
だから田中さんと仲良かったのか
話し相手田中さんしか居ねえもんな
DVDが始まると
シバはぼーっとテレビを眺め出す
シバ元気そうだし、と俺は家でできる仕事をしようと
リビングの机の上にパソコンをだして
仕事を始めた
しばらくパソコンに集中をしていた時だ
『っぁ、』
と、シバの声が聞こえて顔を上げる
続いて
ぴちゃぴちゃと、いう水の音
なんだ、と覗き込むと
ソファの前で
自分の股間を抑えて座り込むシバの姿
そして、その足元には水たまりが出来ていた
「なに?漏らしたの?」
『で、でちゃった、』
「なんで?」
『気づいたら、でた、っぁっでてる、ぁあぁっ』
と、一瞬止まりかかっていたのに
気を抜いたのかぱしゃぱしゃぱしゃと更に水は零れ水たまりを広げた
「いや、なんで漏らすの」
『わっかんねえし……でたんだって』
と、シバは赤い顔で睨んできた
漏らしといてなんだ、その態度は
「あーあ。びしょびしょじゃねえか」
『だって、』
そういえば昨日も無意識に漏らしてたな
まだ本調子じゃねえのかな
「拭くもん持ってくるから動くなよ。お前動いたらびしゃびしゃになるから」
『……』
と、シバはしょぼんとしていた
トイレの躾もなっていない犬を飼うとは思っても見なかった
とりあえず足元の水たまりにはタオルを敷いて吸収させ
シバを立たせるとズボンと下着をまとめて下ろす
軽く脚を拭く
その間シバはされるかままで一向に自分で動こうとしない
「めんどくさいからシャワー浴びといで」
と、腰にタオルを巻いてやると
シバは無言で頷いて
風呂に向かう
はぁ、と俺はため息をついて
その場の後片付けをした
自分の子供もいないのに何やってんだ俺
床を吹き終わると
水滴が垂れないように気をつけながら
流しにタオル類を持っていき
手洗いして汚れを流してから
洗濯機に入れて直ぐに回した
そのタイミングでシバは風呂から出てきて
おむつ履かせとくか少し迷ったが
癖がついたら怖いよな、と
普通の下着をシバに渡す
『…ごめんなさい』
「謝れるんじゃん」
『…できるし』
「気をつけろよ。早めにトイレ行けよ」
『…うん』
もしかしたらまた漏らすかもしれない
そう思いつつも
まぁ今日は休みだし
様子を見るとこにした
昼過ぎぐらいだろうか
シバはDVDを見終わったのか
俺の後ろをウロウロしだした
そして、時折聞こえる
ぐー、という音
「なに、腹減ってんの」
『減ってる』
「適当に冷蔵庫の食えよ」
『……』
そういうと
シバは冷蔵庫を開けて
ゼリー飲料を取り出して飲み始める
……病み上がりのやつ相手に
こんな食事どうなんだ、と
さすがに罪悪感が湧いた
「…なんか食いたいものある?」
俺も腹減ったし、
めんどくさいが2人分作るか、と冷蔵庫を開けた
『カレー』
「は?」
『カレー』
「…は?」
『だから、カレー』
「いや、聞こえてるから。なに、昼飯のカレー今から作れって?何時間かかると思ってんだよ」
『食いたいもの聞かれたから答えたんじゃん』
「いや、考えろよ。腹減ったから適当に昼ごはん作るって時にカレーって」
『カレーって作るの大変なの?』
「なに?お前カレーの作り方知らないの?」
『しらね』
「…作るか、カレー」
『うん、食いたい』
カレー好きなのかな、こいつ
材料は田中さんが昨日買い出しで色々買ってきてくれたからある
1人だとカレーなんてほぼ作らないが
確かにカレーってたまに食いたくなるよな
カレーのレシピそんな良くわかんねえけど
だいたい炒めて煮込むだけだろ
『作んの?カレー』
「だって食いたいんだろ?」
『うん、食いたい』
作るか、と材料をだして
キッチンに並べる
「シバ、じゃがいも洗っといて。手で洗うだけでいいからな。洗剤もスポンジもいらねえから」
『は?知ってるし。そんなん』
「あぁ?」
お前、以前洗剤で野菜洗おうとしたこと忘れたのかよ
田中さんの料理をするのでも見たのだろうか
ザー、と水を流すと
シバが少し震えた気がした
「おしっこ?先行ってこい」
と、いうと
シバは無言でトイレまで走っていく
そして、まもなくトイレの流れる音がして
手を洗いシバは戻ってきた
『…んだよ、その目。間に合ったし』
「そうか。じゃあ野菜洗って」
間に合ってないと思った
背筋震わせてたし
言われたとおりじゃがいも、にんじんを洗うシバ
俺はシバがトイレに行っている間に
洗った玉ねぎを剥いて切っていく
「お前まだ包丁は使っちゃダメなー」
『怖いからやだ』
言われなくてもやらないらしい
鍋に油を引いて
肉を入れ
シバに箸を渡した
「肉炒めといて」
『いためる?』
「焦げないように混ぜて見張っとけ」
『まぜる、みはる』
と、繰り返して言うシバには
不安しか感じない
「焦げそうだったら肉裏返したりして」
と、指示するも
油が跳ねて怖いのか
シバは逃げ腰で
肉が焦げるのは時間の問題だった
とりあえず火を弱め
にんじんを切るのを中断し
玉ねぎを鍋に入れて
よく混ぜる
「あー、ちょっと肉焦げた」
『しょうがないじゃん』
「これ、混ぜてられる?」
『できる、』
と、菜箸をシバに渡すが
玉ねぎの水分でより一層油が跳ねるから
シバはビクビクと近づけない
「シバ、やっぱりいいや。米、無洗米で研がなくていいから水入れて炊飯器やっといて。それ出来るだろ」
『できる』
と、言うと直ぐに炊飯器に取り掛かったから
こちらも急いでにんじんを切り
それを入れてから鍋を振る
じゃがいもは諦めて大きめに切った
その間にシバは得意の米は終わったようで
「じゃがいも、水につけられる?」
そういうと
まな板に乗ったままのじゃがいもに
水をかけるから
「シバ、なんか深い容器に移して」
と、いうとようやくボールの中にじゃがいもを入れ、水に付ける
俺は鍋を混ぜると
もう既に肉と玉ねぎは所々黒いが仕方ない
そして、
にんじんとじゃがいもをようやく鍋にいれた
『なぁ、もう出来る?』
「できねえよ。固いだろ」
『えええ、腹減った』
「いや、お前が食いたいって言ったんだからな」
と、野菜にだいたい火が通ったことを確認し
水を入れた頃には
シバは飽きてソファに寝ていた
『できた?』
「まだだって。あとちょっと」
と、5分ごとぐらいに聞いてくる
「米だって、まだ炊けてねえだろ」
『そっか』
と、何故か納得したシバ
しばらくコトコトと煮込み
ようやく全ての具材が柔らかくなった所で
カレールーを入れようと取り出す
「あ、」
『なに、どうしたの?できた?』
「いや、あとちょっと」
『えええ、俺もう腹減って限界なんだけど』
「いや、もうちょいで出来るんだけどさ、お前辛口食える?」
『んー、食ったこと無いけど多分食える』
「お前カレーいつも何食ってんの?」
『ポークカレーに半熟卵とチーズトッピング』
「…乗せろってか」
まぁ、普通のポークカレー食えんならまぁ大丈夫だろ
『できた?』
「もうちょいだって」
シバが待てないからもう辛口でいいや、と
辛口のルーをカレーに入れて煮込む
『あ、ご飯できた。ごはんー』
と、炊飯器を開けて
ご飯を盛り付けるシバ
『腹がもう限界』
「あとちょいだって」
と、その間に目玉焼きを作って
そろそろいいだろう、というカレーを
ご飯の上にかけ
チーズも乗せて
目玉焼きを乗せてやる
「シバ、出来たぞ」
『俺もう腹減って無理だって』
「ほら、食え」
と、シバの前にカレーを置くと
目をキラキラさせた
『ふーん、』
「なんだよ、その反応」
『うまそう』
「食っていいよ」
と、いうとシバは無言でスプーンを持った
「シバ…待て」
『え、』
と、もう食える、と思っていたシバは
ぴき、と固まった
『なんで、』
と、俺のことを睨む顔は
もう泣きそうにも見える
「シバ」
と、シバのスプーンを持つ手を掴む
完全にお預けを食らった犬だ
ヨダレ垂らすんじゃないのかな
『なあ、くう。食いたい』
「シバ。食う前に言うことあるだろ」
と、いうと
シバはちょっと考え
いや、そんな考える事か?
『美味そうに作れたじゃん。えらい』
「ちっげえよ!何目線だよ!」
『ええ?』
と、再び考え込む
そして、
目を逸らし
恥ずかしそうに言った
『…作ってくれて、ありがとう』
「…お、おう」
そんな恥ずかしそうにいうから俺まで
何だか照れてしまう
『……食っていい?』
「シバ……食う前に言うことはな、いただきますだろ」
『…………んだよ!変なこと言わせやがって!』
「お前が勝手に言ったんだろ」
『はぁ……いただきます!』
と、シバは俺の腕を振り払って食い始めた
「…うまい?」
『…うん。うまい。辛いけどうまい』
と、勢いよく食べていた
相当腹減ってたんだろうな
目玉焼きとチーズのおかげか、
辛口でもどうにかまろやかになって食えるのだろうろ
最初に食いたいと言ってからもう1時間以上経っていた
やっぱり辛いのか
時折水をぐびぐびと飲むけど
スプーンを持つ手は止まらないから
どうやら満足する出来だったようだ
『うまー、』
「シバ」
『なに?』
「よかったな」
『うん』
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