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第37話
『めんきょとれた』
「おお、よかったなあ」
帰った瞬間
シバが玄関までかけてきて
とれたての免許を見せにきた
『うん、いっぱつ』
というシバから免許証を受け取って
マジマジと見る
「志波ってこういう字なんだなー。そういやお前祈織って名前だっけ」
『なんだよ今更』
「だって、ずっとシバって呼んでるからよ」
今更な感想も出てきてしまう
『祈織って呼んでもいいよ』
と、なんとも可愛らしい事をふざけて言うから
鼻で笑ってしまった
「なんかこのお前ガキみたいな顔してんな」
『そんな事ないと思うけど』
写真に写るシバは
なんだかぽやっとした子どもみたいな顔をしていて実物より可愛らしい感じに見える
髪型のせいか?
返して、と手を伸ばしてくるから
返そうとした時だ
免許証を凝視したまま止まってしまった
『ねえ、返して』
「お前…」
『なに、』
「今日誕生日じゃねえか」
『え、うん。そうだけどなに』
「忘れてた、」
『いや、べつにいいけど』
やべぇ、すっかりわすれてた
気付かなかった
免許証に書いてある生年月日でようやく気付いた
そういや前に今日って言ってたじゃねえか…
つか言えよ、
うわ、ショックだろ
今日に限って仕事もおそくて
帰ってくるのが遅くなってしまっていた
そんな俺の手から免許証をとって財布にしまう
「良くねえだろ!お前20歳になったんだろ?」
『え、そうだけど?』
「あーもう、言えよ」
『なんで、わざわざ』
「うわ、最悪。今からじゃ飯も食いに行けないだろ」
もう時間は22時過ぎていて
飯なんて適当に済ませていた
シバも適当にコンビニで済ませたようで
テーブルの上に空き容器がそのままになっていた
いや、誕生日の夜に1人でコンビニとか寂しすぎんだろ…
さすがにこのままじゃだめだ
「ちょっと出るわ」
『は?どっか行くの、こんな時間に』
「ああ」
『なんで、』
今帰ってきたばっかりだから
そのまま出かけようと靴を履き直した
「ケーキとか、買ってくる」
こんな時間にケーキ屋はやっていないからとりあえずコンビニでシバの好きそうなもん買ってこよう
それでまた明日改めてちゃんとケーキ買いに行くか…
『いや、いいって。今更』
と、特に気にしてないようにシバはいう
「良くねえだろ」
『いや、おれの誕生日、もうあと2時間もないし』
「だから買ってくるから」
『そんなんより一緒にいてよ。甘やかせよ』
「は、」
なんだそれ
甘やかせって、
一緒にいてって
なんだ、
「祈織」
『……は、ぇ、』
と、ぽかんとした顔をするシバ
「なんだよ、その反応」
『急に名前よぶから、』
「呼んでいいって言ったろ?」
『あんなの冗談じゃん、』
「なに、いやだった?」
『嫌じゃねえけど』
「酒飲んでみるか?せっかくだし」
『酒?』
シャンパン、あったはずだと
ワインセラーからシャンパンを出して
見せる
『なんか高そうなやつ』
「せっかくだしいちばん高いやつな」
『いいの?そんなん』
「今日飲まねえでいつ開けんだよ」
『…わかんないけど………ねえ、やっぱり寝ようよ』
「は、なんで」
『なんか恥ずかしくなってきた』
と、照れているシバを無視して
チーズやナッツなど
適当なツマミも出す
「なんでだよ、ほら開けるぞ」
と、
シバの待つ食卓に行き
蓋の周りをペリペリと剥いて
栓を飛ばす
そして、シバのグラスから注いでやると
その一連の動作をじっと見つめているシバ
自分のグラスにも注ぎ
「はい、乾杯」
と、グラスを差し出すと
控えめに、ぎこちない動作で
少しだけグラスを当てる
「シバ、誕生日おめでとう」
『………ありがとう、』
シバはグラスに口をつけ
少しだけど飲む
「どうだ?美味いだろ」
『……うん、』
と、言うけど
きっとよくわかってない
シバは舌が子供だから
きっとクリームソーダのが好きなんだろうな
シバが飲み込むのを見届け
俺も1口飲むと
やっぱり最高に美味い
結構いいやつだから1人で飲むのは
ちょっと勿体なくて開けかねていたからいい機会だったな、これは
「プレゼントとか飯行くのは明日な」
『え、わざわざいいって』
「ハタチだろ、それぐらいさせろ」
『…べつに欲しいもの、ない』
シバ物欲薄いんだよなあ
服とかも特に欲しがんねえし
「あ、車はどうだ?」
『は?なに、なんの話し』
「プレゼント」
『………ばっかじゃないの。なんで急に社長感出すんだよ』
「なんで、いいだろ。せっかく免許も取ったんだし」
『普通にいらない。べつにどこも行かないし』
「んだよ、それ」
車あったらどこにでも行けるだろ
まぁ、運転慣れるまではしばらく社用車でいいか
「考えとけよ。欲しいもの」
『まぁ、考えとく』
と、言うけど
本当に考えるのだろうか
まぁ、特に言わなかったら色々用意してやるか
「来年は当日にちゃんと祝ってやるからな」
『…………』
「なに、」
『忘れんなよ、絶対』
なに、
やっぱり怒ってたのかよ
忘れた事……
「だから忘れて悪かったって」
『ちっがうし』
「は?何が」
「忘れたことおこってんじゃなくて、来年も絶対祝えってこと。忘れないでっていってんの」
「は?だから、そうだろ?」
何が違うのかよくわかんないが
まぁ、来年はちゃんと当日に祝えば問題ないか
『来年も、その先もな』
「だからわかったって、来年はちゃんと当日に祝うから」
と、約束したのに
シバはなぜかあんまり納得の行っていない顔をしていた
何が不満なんだ、全く
『おかわり』
不満気な顔でグラスのシャンパンを飲み干し
空いたグラスを差し出して来るから
注いでやると
それもまた一気に飲んだ
おい、結構良い奴なんだから味わえよ
「シバ、」
『なに、』
「美味しいか?」
『これ、おいしいやつなんでしょ』
「あぁ、そうだよ」
『じゃあ、これがおいしい味っておぼえとく』
と、頭悪そうな事を言っているあたりは
多分味なんてわかってないしまだ子供舌には早かったようだ
「まぁ、これから徐々にわかってけばいいよ」
おかわり、と味もわかんねえクセにまたもやグラスを差し出すから
ついでやると
既に少し酔ったのか
顔が赤いシバは
上機嫌に俺の隣に移動してきた
『なぁ、』
「なんだ?」
『あまやかしたりなくねえの?』
「……酔ってんの?」
『よってねえけど』
酔ってんな、これは
まぁ、お気に召すままに
今日は甘やかしてやるか
20歳になり
初っ端おねしょするとも
この時はまだつゆ知らず、
上機嫌に俺の膝の上に乗っかるシバの頬に手を添え
おでこからキスを落としていく事にした
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