38 / 180

第38話

「しーば、出かけよ」 と、昼過ぎ頃に声をかけるが シバはソファでふて寝をしていて 動こうとしない というのも 昨日はシバの20歳の誕生日で 大人になった記念に結構いいシャンパンを開けた しかし、それが良くなかったのか 結構いいシャンパンだから 悪酔いせずにスルスル入ってく いつの間にか飲みすぎたシバは そのまま寝てしまい 朝、気付いた時には下半身が大洪水だったのだ 記念すべき20歳の誕生日翌日、 ハタチになり大人になったと言うのに 初っ端のおねしょ そしてお気に入りの枕も大洪水の被害にあったのだ ベッドは防水シーツだから問題なかったが 枕の方はクリーニングに出す事にした そのせいでシバは朝から不機嫌というか 不貞腐れてしまって 風呂で体を洗ってやっても 朝ごはんにベーコンエッグのたまご2つにしてやっても 一向に機嫌が治らないのだ 「シバ、いつまで拗ねてんの」 『別に拗ねてねえし』 「じゃあなに。落ち込んでんの」 『……うるさい』 「うるさいじゃねえだろ?ほら、出かけるから着替えろって。誕生日プレゼント買いに行って飯行くぞ」 『………』 「欲しいもの決めたか?」 『決めてない、 』 「じゃあ俺が選んでいいか?」 『……うん』 「ほら、シバ。行こ」 ようやくシバはのろのろと動きだしたから 着替えを手伝おうと 上を脱がしてやる 「ほら、ちゃんとインナーのシャツ着ろよ」 『んんー、めんどい』 「乳首擦れるだろ」 『別に気になんないし』 まぁ、シバの乳首は小さめだから透けたりは少なそうだけどまだ寒いこの時期は着るべきだと思う 頭からシャツを被せてやると 脱ぐのもめんどくさいのか そのまま着るから 適当なパーカーを着せる 『どこいくの?』 「まだ内緒」 『車はいらねえからな』 「わかってるよ、そんなん」 ズボンも出してやると のろのろと履き替え ようやくシバは出かける準備を整えた 『なんか持ってく?』 「特にいらねえけど」 『じゃあいいや』 と、本当に手ぶらで行こうとする 「携帯くらい持ってけば?」 『お前といる時別に連絡する人いないからいらない』 「ふーん、」 『今日、仕事行くの?』 「行かねえよ」 『なんで、そんな格好してんの』 シバが疑問に思ったのも無理はないかもしれない なぜならスーツを着込んでいて シバからしたら不思議なんだろう 「別にいいだろ」 『ふーん、』 シバは本当に何も持たずそのまま車に乗り込んだから シートベルトをしたことを確認して 車を発車させる そういえば、一緒にいる時に シバが携帯をいじっているのはほとんど見たことないな、今更ながら 「お前友達とかいねえの?」 『特にいないけど』 いいのか、それで 「学生時代の友達とかは?」 『あー』 「なんだよ、その反応」 『いや、昔はいたんだけど』 「けど?」 『親友と思ってたやつがゲイでさ。告白されて、でもおれは友達だったから断ったら気まずくなっちゃったんだよね』 「…なるほど」 『おれは普通に友達でいたかったんだけど、なんか違ったっぽい』 「まぁそういう事もあるよな」 俺は無いけど 男女間でならあったが男同士はねえな 『あ、でも昨日親からは連絡きた。おめでとうって』 「お前親いたんだ」 『そりゃいるだろ』 いや、聞いたこと無かったな、そういや 『お前は?親いるの』 「いるぞ。両親と兄貴と妹」 『ふーん、どんな人』 「まぁ普通の家だぞ。小さい店やってっけど兄貴いるから跡継げとか特にねえし」 『店?なんの店?』 「豆腐屋」 『へええ』 「なんだよ、その反応」 『いや、豆腐食って育ってそんなでかくなるんだなって』 「バカにしてんだろ」 『意外だなって思って』 「お前は?」 『何が?』 「家。継げとか」 『あー、おれ長男なんだけど』 「へえ、すげえ意外。末っ子だと思ってた」 『末っ子だよ』 「は?」 『姉2人とおれ』 「あぁ」 なるほど、それは大いに納得だ 『特に継ぐようなものとかないし』 「ふーん、なんかお前の家の話し初めて聞いたな。一緒に住んでんのに」 『だってお前あんまり興味無いだろ』 「いや、別に」 まぁ、興味無いというか 気にしてなかった 道端でぶっ倒れるあたりは 家がないのかと思っていたがそういう訳でも無かったらしい まぁ、よく考えれば シバの生活能力の無さは 今まで一人で生きてきたような人間のものでは無いからな 多分一人で生きてたらとっくに死んでる 今回俺が拾ったのは偶然だったんだろうな 「お前ってさ、」 『んー、』 「なんかしたいことあるの?」 『したいこと?』 「まぁ、将来の夢的な?」 『んんん、特に』 「そんなんでいいの?」 『お前は?』 「まぁ俺は豆腐屋継ぎたくないと、親楽させてやりてえぐらいしか考えた事無かったけどな」 『かなえてんじゃん』 「まぁなんだかんだ」 『なんで継ぎたくなかったの?』 「痒くなんだよ、豆乳飲むと」 『よわ』 「うっせえ」 もし、体質的に大丈夫だったら 俺も豆腐屋継ぐことを考えたらだろうか いや、それは無いか 『なぁ、どこいくの?』 「服買いに行く」 『服?なんの?』 「お前の」 『プレゼント?』 「ああ、」 『ふーん、』 家から出たからか シバのご機嫌はだいぶマシになっていた これなら大丈夫だな ◇◆ 店に着くと なれない雰囲気でシバはすっかり縮こまっていた 「どれがいい」 『いや、わかんねえから』 と、いうのも今回シバには スーツを仕立ててやろうと オーダーメイドの店に来ていた 『なんで、スーツ?』 「いや、お前働くときの格好大学生みたいなんだもん」 『それぐらいの歳だし』 「そうだけどよ。1着くらいいいスーツ持ってた方がいいだろ、なんかあった時の為に」 『なんかって』 「パーティとか会食とか」 『おれ、そんなん必要なの?』 「たとえだよ」 『……本当に必要?』 「必要だって」 と、採寸されながらいうシバ 「あと普段使いするやつも買おうな」 『そしたら、おれスーツ着て仕事すんの?』 「あぁ、そうだ」 『えええ、やだ、着慣れないし』 「いいもんだぞ、気が引き締まるっていうかスイッチが切り替わるって感じで」 『そういうもんかな、』 「お前はグレーより黒かネイビーだな」 と、鏡越しにシバを見て 何着か当てる 店主がおすすめを持ってきてくれるから 普段使いようにセミオーダーの物を 何着か試着させることにした 「シバー、どうだ?」 と、試着室の前でシバに声をかけると 控えめに試着室のドアが開いて シバが姿を現す 『ねえ、ネクタイ結べない』 「はぁ?学生の頃結ばなかったのかよ」 『学ランだったし』 「意外」 顔的にブレザーかと思ってた …それにしてもシバの学ランか それも、悪くねえかもな… 『なあ、』 「ほら、かして」 と、ネクタイをとり 結んでやると 「おお、いいなあ」 案外、様になっていた 『そうなの?』 「かわいい、いい」 『かわいいの?それ大丈夫?』 「いや、似合ってるって。それにしよ。あーでもまだきてないのも捨てがたいな、どうする」 『どっちでもいい』 やっぱり顔がいいんだよな、こいつ スーツを着ていると さっきまでおねしょをして拗ねていたなんて思えない 「とりあえずもう一個のほう着て」 と、再び試着室に送り出すと ため息を吐いて 着替えを始めた そして、 『着たよ』 と、間もなくドアが開き 出てきたシバ さっきのは黒いやつ 今着てるのは濃い紺色のやつ そしてどっちもスリーピースのやつだ 「うん、どっちも買うか」 『は、なんで』 「どっちもかわいいからいいだろ。スーツなんて毎日着るんだから何着あっても困んねえし」 『だって、オーダーメイドのやつも買ったじゃん』 「それは別だろ。よし、じゃあそれとそれと。ネクタイどうする、今してるのとさっきのやつとー、これも悪くねえなぁ」 と、合わせているがイマイチ乗り気じゃないシバ まぁいいや。似合うから買うか 「欲しくねえの」 『……なんで、そんなしてくれんの』 「なんでって、似合うから着せたいんだけど。嫌か?」 『…嫌じゃねえけど、』 「誕生日なんだし、受け取っとけ」 『……ありがとう』 と、少し気恥しそうに言ったシバ 「よし、じゃあ飯行くか」 『うん、じゃあ脱いでくる』 「いや、そのままでいい」 『なんで、』 「いや、だって今日行く飯屋、パーカーとか入れねえし」 『は?』 「フレンチ、予約しといた」 と、ぽカーンとするシバを置いて オーダーメイドの方のスーツの受け取り日時や 会計等を済ませ アレ、着て帰るんで と、店主に伝えると シバの適当な服をかなり丁寧に袋に入れてくれて 申し訳なくなった 「よーし、いくぞ。楽しみだなー、フレンチ」 と、まだよくわかっていないシバを 再び助手席に座らせる 『おれ、フレンチとか食ったことないんだけど』 「個室取ってるからなんも気にしなくて良いって 、それに元からおまえにマナーなんて期待してねえ」 『こしつ、…』 余計緊張させてしまっただろうか 小さくそうつぶやき シバはひたすら窓の外を眺めていた

ともだちにシェアしよう!