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第138話

「シバくん、この後予約の管理見てもらいたいからもしあれだったら先にトイレとか水分補給とか済ませてもらっても大丈夫?」 『は、い、』 と、ヤナギさんに言われ そう言えばトイレ、2時間近く行ってなかったと急いでトイレに向かった 少し走ると げほごほと咳が出てしまって 咳が出る度に じわ、じわじわ、とパンツの中が温かくなる 『っぁ、っんん、』 もうだめ、と脚を止めると じゅわわわ、とパンツの中に一気に水が広がってしまった 『んんっ、もれちゃった、』 と、歩くとじゅわじゅわして 漏らしてしまったおしっこが 零れそうになって嫌になる ゆっくり、おしっこを零さないように歩くけど エレベーターに乗る頃には じわじわと染み出して ボクサーの形のパンツの裾が湿り始めてしまった はやく、あいつのところに行かなきゃ、 エレベーターの5のボタンを押して 社長室の階について 社長室の前に来たけど おもらしした事をあいつに言うのが恥ずかしくて 少しその場で立ち止まる すると、裾に染み出したおしっこが つぅ、と太ももにつたって背筋が震えた もういやだ、 おしっこしたい感じ、無かったのに ヤナギさんにトイレって言われて はじめておしっこが溜まっていたことに気付いた 我慢なんかなんにもしないうちに 身体が全部おしっこを出してしまった こんなの、赤ちゃんと一緒だ 「…どうした?そんな所で」 と、不意に内側からドアが開いて あいつがドアからこちらを覗き込む 『えっと、』 「おいで、シバ」 と、腕を引いて中に入れてくれる 『おしっこ、もれちゃったから、』 「もれちゃったか。ズボン大丈夫か?」 『わかんない、……たくさん、でた』 謝らなきゃ、と息を吸ったが その拍子に喉が引きつって また咳が出て喋れなくなる 「シバ、大丈夫?」 と、背中をさすられて 咳は止まったけど悲しくなった おれ、本当になんもできないんだ、 おもらしするし、 熱出したから こいつも2日間会社休ませたし、 ずっと咳も止まらないから背中撫でてもらわなきゃ息もうまくできないし 「ズボン脱ごうなー」 と、突っ立ってるおれのベルトを外して ズボンを脱がしてくれる 「あー、結構ギリギリだったな。ちょっとだけパンツから溢れたか」 『……ごめん、おしっこ、もれちゃった、』 「うん、大丈夫だから」 『ごめ、っごほっ、げほ、ごほっ、』 「シバ、大丈夫だからちょっと落ち着け」 『げほっげほっ、はぁっ、ぁぅっ』 おれのこと、いやにならないってこいつは言ってくれるけど おれは自分のことがいやになる 名古屋駅であいつに、 汰一に会ってから もう忘れていた不安を思い出して それからずっとおれの中にある 『なあ、』 「どうした、シバ」 『おれ、おまえのいうこと全部聞くから、』 「は?なにが?俺別に怒ってねえよ?」 『おもらしは、……しないようにするから、』 「なに?おむつ履くの嫌か?そんな嫌ならパンツでもいいけど」 『えっと、それは、約束したから。おもらししたらおむつ履くって』 「そっか、じゃあおむつ履かせるけどいいな?」 『うん、そうする』 おれの言葉を聞いて おれのパンツを脱がして タオルで拭いてくれる おれ、これも自分でできるようになった方がいいかな 『なあ、おれ、おもらししたらじぶんで、拭く?』 「いいよ、そんなん。俺がいる時は俺がやるから」 『…なんで、そういうこというの』 「は?何言ってんの?」 『おまえがいる時はって。いないときもあるみたいな言い方じゃん』 「シバ、怒んないで。どうしても俺がやってやれない時だってあるだろ?そしたらシバが自分でやる事もあるんだから、やり方だけは覚えとけよって話」 『……わかった、けど、』 だって、その言い方がいやだったんだ 「シバ、どうした?やっぱり体調悪くなってきたか?」 『のど、痛くてやなだけ』 「今日は残業しないで帰ろうな。はちみつレモン飲むか?温かいのいれるけど」 『…のむ……けど、』 「おしっこ出ちゃうこと気にしてんの?」 『…うん、』 「また時間決めてトイレ行けばいいから。携帯でアラームかけときな」 言われた通り すぐにアラームをセットした 「シバ、心配か?」 ちがう、と頭を横に振った 「シバ、おいで」 と、おれにおむつをつけて 手を広げる 『なに?』 「だっこすんだろ?おいで」 『仕事中だろ、』 「いいじゃん、仕事中でもちょっとぐらい抱っこしても」 おいで、とおれを膝の上に乗せて 背中を撫でてくれると こいつの体温と匂いで もやもやしていた不安が少しなくなって咳も止まる 『おれ、これすき』 「抱っこ?知ってるよ」 『なぁ、おれ大人なのにいつまでもこんなんでやだ?』 「なんで?誰もそんなこと言ってねえだろ。俺もシバの事抱っこすんの好きだし」 『…おれ、そういうのすき』 おまえのそういう所、 そういう風に言ってくれる所 おまえの事が好き おれはいっぱいこいつに伝えてるつもりだけど 伝わってるのかな 「いっぱい抱っこしてやるから、シバは俺にいっぱい甘えような」 『……いやになったら、言えよ、』 「何が?俺はいやになんねえよ」 そんなの、わかんないから 今はいやじゃなくてもいやになる事もあるはずだから おれは、そういうの教えてもらえないとわかんないから

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