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第176話

へぇ、バレンタイン。 何となくテレビを見ていたら バレンタイン特集がやっていて ぼー、とそれを見る 今日はくがさんだけ会社に行っていて 俺は1日暇していた バレンタインまであと数日と迫った今 テレビではバレンタイン特集ばっかりやっていておいしそうな限定のチョコレートの特集が組まれていた うまそおー、 学生の頃はよく貰ったけど 学生やめてから貰ったりしてないなあ あ、探偵事務所の時 下宿先の奥さんには貰ったけど なんだろ、 学生の頃みたいなソワソワ感は無かったな 学生の頃は彼女とか女の子達に貰ったりなんとなく学校全体がソワソワした雰囲気だった でも社会人になるとこんなもんなんだよなあ だいたい好きな女の子とかもいない、し、…… 《今年は、とっておきのチョコレートと一緒にあなたの気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか》 と、チョコレートを紹介していたアナウンサーの人が言った ……だから、 そもそも、バレンタインとか 日本では女の子が、 男にチョコレート渡す行事だし… おれには関係ねえ、と テレビを消した時だ 玄関が開く音がして 急いで玄関まで走っていく 『おかえり』 「起きてたか。ただいま。これ土産」 と、手に小さな紙袋を渡され 家の中に入っていくから1歩後ろを歩いてついて行く 『なに?』 「取引先の人に貰った。チョコだって」 と、袋の中を覗くと チョコレートの箱でさっきテレビで見た 限定のヤツだ 高いやつ 『……ふーん、くれたの女の人?』 「あぁ、そうだな?」 と、さっさとネクタイを外して 着替え始めるから ぎゅっと背中から首に腕を回し おんぶ、と背中に抱きつく 「なに?どうした?」 『おんぶ』 「おんぶ?俺着替えてるからちょっと待って」 やだ、とそのままおんぶをして すんすんと襟足の匂いを嗅ぐ 「ちょ、シバ匂い嗅ぐなって。俺おっさんだし」 『…やだ、』 おれお前の匂い好きだし すんすん、と匂いを嗅いで おれの匂いもこいつに付けるように身体をすりすりと擦り付ける 「シバ、どうした?家にいんのつまんなかった?飯食ってねえの?」 『くってない』 「食っとけって言ったじゃん」 『くがさんと一緒に食いたかったの』 「俺食ってきたけど」 『えええ、うらぎりじゃん』 「裏切りもなにも俺食って帰るから食っとけって言ったじゃん」 『んんん、だって、』 「うどんでいいか?」 『うん、うどん』 やったー、うどん、と ずるずると引きずられてキッチンに行く すき、と耳に齧り付く 「シバ、痛え」 『んん、や、』 「腹減ってんの?待って」 ガジガジ、と耳を噛んでいると やめろ、と引き剥がされる 「シバ、あっちで待ってて」 と、リビングで待たされて 机にぐだり、と寄りかかってさっき貰ったチョコレートの袋に視線を送ると もや、とした気分になる 『んんん、おまえはおれのなのに』 …なんで、女からチョコレートなんて貰ってくんだよ 「シバー?なんか言った?」 と、キッチンから声が聞こえたけど無視して チョコレートの封を開ける 装飾も華やかなチョコレートは キレイに箱の中に並んでいて 1個1個区切られた箱 全部で5個。 これで5000円くらい、と先程みた情報を思い出す ふーん、 取引先の人にこんなの渡すのかな ただの取引先の人にこれ。と それを1個口の中に入れる うん、うまい。 あいつ宛てのチョコ さすが高いだけあってうまい 「あ、お前うどん作ってやってんのに食うなよ」 『腹減ってたんだもん』 と、おれの前ともう一個 うどんの入ったどんぶりを置いたくがさん 『くがさんも食うの?』 「うん。作ってたら腹減った」 『一緒に食お』 と、箸を取って 『いただきます』 と、うどんをちゅるちゅるすする うん。温かくてうまい 「シバ、うまい?」 『うん、うまい』 冷凍うどんうまい ちゅるちゅるしてるし 『なあ、うどんっていくら?』 「ええ?よく覚えてねえけど。5個入りで500円しないくらいか?」 『へええ、いっこ100円』 あのチョコは1個1000円 「お前本当にうどん好きな」 『うん、お前が作ってくれるからすき』 「お前本当に俺の事好きな」 『……、そんな、の、』 決まってんじゃん。ずっと言ってんじゃん、 そんなの ごちそうさま、と食器を下げて ソファに行こうとすると 「へえ、チョコこんなんなんだ。1個食っていい?」 と、おれがさっき置きっぱなしにしたチョコを食おうとするくがさん 『や、だめ。おれの』 「いや、元は俺が貰ったやつじゃん」 『もうおれが貰ったもん。お前チョコ好きなの?』 「まぁ、そこそこ」 『……おれのが、ちょこ、好きだもん』 と、チョコの箱を取って 1個口に咥えるけど 『……ん、』 と、そのまま差し出す 「くれんの?」 と、聞かれたからうん、と頷くと そのままチョコを齧ろうとしてくるから 頭に手を回して やっぱり返して、と口を付けると くちゅ、と深く口を付けると チョコレートが溶けて甘い味が広がる そして全部奪って唇を離し噛んで飲み込む 「くれんじゃなかったのかよ」 『やっぱりあげない』 と、いうと今度はおれのほっぺたを挟まれて ぺろり、と口の端を舐められる 『ん、なに』 「うまかったよ、甘くて」 『……あげないって言ったのに、』 「お前がうまそうなのが悪い」 と、口の端をぐい、と親指で拭かれた 「…お前、本当にうまそうな顔してるよな」 『なに、うまそうな顔って』 「ん?そのままの意味」 と、ちゅ、と瞼にキスをされる 『おまえ、チョコ食いたかった?』 「うーん、まぁそこそこ。シバが食いたいならいいけど」 『……このチョコは食っちゃダメだから』 と、箱を袋にしまって背中に隠した おれって、女々しいのかも。こんなん でも、やなんだもん

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