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第177話

『ぅわぁ、』 と、百貨店にきて引き気味に声が出てしまった おれ、ものすごい場違い そして人がすごい さすがバレンタイン当日。 女子たちってこんな頑張っていたんだ でも、おれだって 今日はチョコを買いに来たんだ、と気合いをいれた だって、 ………、おれだって、 チョコ、食べたいから来たんだし 自分のためにチョコ買いに来ただけだし、あいつのためじゃない……、 目的のお店に向かう 調べてきた、というか特集でみたやつ これだって決めていたやつがあった 『うぅ、』 人混みがすごい、と どうにか人混みをかき分け 目的のお店に向かう 『えっと、この、6個入りのやつ、』 「はい、お渡し用の紙袋はご利用ですか?」 『おわたしよ、う、いら、ないです、』 「ではこちらのメッセージカードのみ一緒に入れさせていただきますね」 と、小さなカードを袋に入れてくれて どうにか買えて お店のお姉さんににっこりされてものすごく恥ずかしかった 男なのに、チョコ買いに来てるってやっぱりおかしいかな… でも、 人混みから抜け出して 紙袋の中を見ると 赤っぽいキレイな箱 うわぁ、買っちゃった、となんとなくソワソワした いや、俺のだし おいしそうだから買ったんだ 無事に買えて 駐車場に戻り、車に入ると一気にぐったりした 仕事のあとの結構遅い時間なのに混んでいて 人酔いした はぁあ、と息を吐いてハンドルにもたれかかった けど、買えた、と 紙袋の中を見て少し満足感 これがいちばんおいしそうだったし、 あいつが昨日貰ってきた本命チョコもおいしかったけど こっちのが、あいつ好きそうだし……、 いや、おれがすきだし、 その時、中に入れられたカードに気付いて、そ れを取り出して少しそれを指先で触る いや、おれ用だし、 いや…でも、一緒に食べるかも、と 鞄の中からペンを取り出した …、 帰ろ、疲れた 女の子がいっぱいいるところに入ったからか、 なんか自分から女の匂いする気がする ◇◆ 『ただいまぁ』 「おかえり。遅かったな。飯は?」 『くってない、』 と、そのままソファにばふん、と横になる 「どうした?どこいってた?」 『……べつに、脱がしてええ、』 と、手を伸ばすと 起こしてくれて ジャケットを脱がされる そして、何故かおれのジャケットを手に持って 何だかじっとそれを見た 「……シバ、どこいってた?」 『だから、……べつに、って、』 と、起き上がると 買ってきた紙袋に足が当たって ガサッと袋から箱が出る 「……女と会ってた?」 『会ってないけど、』 「……なんで?」 『なんでって、べつに、会ってないから、』 「それ、なに?」 『おれの………チョコ、』 「どうしたの?」 『……どうしたのって、なんだって、いいだろ、これ、おいしそうだから、』 買ったんだ、チョコが食いたかったから、 見せようと思ってそれを手に取って 抱っこ、と手を伸ばすが なぜか 俺の事を無視してキッチンに行ってしまったからなんだよ、とそのまま紙袋を持って、ソファから立ち上がって追いかける 『なああ、だっこ、くがさん』 と、背中に抱きつくが 「シバ、あっち行ってろ。つか着替えてこいよ」 『……なに?』 「何じゃねえって、着替えてこい」 『なんで、着替えさせてよ』 「自分で出来るだろ」 と、首に回した腕を避けられる 『……なんで、できない』 「自分で着替えろ」 『やだ。着替えさせろ』 と、今度は前に回ってくっつくが 「お前、女臭い。近寄んな」 と、引き離される 『……なに、それ、』 なんだよ、女臭いって 「………女と会ってたのか?」 『………は?』 なに、なんで? 「お前、女と会ってたのって聞いてんだけど」 『だから、会ってないけど』 「じゃあなに?お前女臭えしジャケットにファンデーション付いてたし、チョコなんて貰ってきてるし」 と、言われてようやく気付いた 勘違いされてるって 『ちがう、そんなん違う、会ってない、』 「いや……、悪い。そんなんべつに俺がどうこういう事じゃねえか。シバ、飯作るから着替えてそっち行ってて」 と、おれの話を聞いてくれなくて おれの顔も見てくれない 『……もういい、』 なんだよ、 おれの話聞けよ、と堪らずイライラした 「……だから、謝ってんだろ。お前が女と会ってても別に俺には関係ねえって」 『勝手なこと言ってんな』 「だから謝ってんだろ、」 『ばか!おれの言うことなんも聞いてくんないくせに!』 と、紙袋を投げつけてそのまま家を飛び出した 「痛って、おい!シバ!」 むかつく、 なんだよ、 おれの話聞けよ。 勘違いされたのもむかつくし たとえおれが、女と会ってもなんにも言ってくれないんだって、 おれはお前の物だろ なんだよ、 おれが女と会ったらお前は文句言えよ 独占しろよ と、どこに行くでもなく飛び出して 情けなく涙が滲んだ なんだよ。 あいつの家出ていったら おれに行くところなんて無いのに。

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