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第178話
「痛って、おい!シバ!」
と、投げつけられた紙袋が腕に当たって床に落ちる
シバは走って出ていってしまい
追いかけようと手を伸ばし一歩踏み出すと
ガサッとさっきシバが投げつけてきた紙袋が足に当たる
せっかく貰ったもの投げんなよ、と
しゃがんでそれを拾うと
袋の中から紙が1枚落ちる
なんだ、とそれを拾って固まる
「……本当に馬鹿すぎんだろ、」
と、そのまま家を飛び出した
シバが行きそうな所なんて検討がつかない
ここを出たシバはどこに行くのか、
どこか行く場所があるのかもわからない
そこそこちゃんと鍛えているのに
シバを探して走って息が切れた
携帯を鳴らしてもシバは出なくて
いや、もしかしたら持たないで出ていったのかもしれない
くっそ、どこにいんだよ
シバが俺以外に頼る人なんて思い浮かばない
いや、居ないとは思うけど、と
もしかしたら、と
携帯を取り出して鳴らす
「あー、もしもし、あきらくん?」
「どうしたんすか、きゅうに。仕事?」
「いや、じゃなくて…シバ行ってねえ?」
「いおりん?来てないけど。なに?いおりんいなくなっちゃったの?」
「……いや、まあ、」
「ええ?なんで?ケンカ?こんな日に?」
「……いや、うん、行ってねえならいいや。夜遅くに悪かったな」
と、電話を切ろうとすると
「あ、社長」
と、あきらくんに引き止められ
もう一度電話を耳に当てる
「なに?」
「オレ、いおりんと友達だけど、いおりんはきっと社長以外に頼る事は無いと思うよ」
「……だよなあ、ごめんな、あきらくん」
「そんなのいいから早くいおりん探しなよ」
「あぁ、わかってる、ありがとな」
と、電話を切った
そうだよな、わかってる
あいつは俺以外に頼ることなんて無いんだ
どこ行った、シバ
あっちぃ、と
走り回ったせいでこんな季節なのに熱くなって
額から伝う汗を拭った時に気付いた
あいつ、コートどころかジャケットも着てってねえ
走って出ていって
汗でもかいて冷えたら、風邪ひくんじゃねえか
冷えてトイレだって我慢できなくなっているかもしれない
「シバー!」
と、大きな声でシバの事を呼ぶが
もちろん返事もなく
走って当たりを見回す
細い道を覗いてもシバはいなくて
いねえ、と膝に手をついて息を吐く
シバが行きそうな場所なんて無くて
後はもうあそこしかない、と1度家に戻って車に乗り込んだ
◇◆
「シバ!いた、」
車を路駐して飛び降りようやく息を吐いた
「シバ」
『……、なんだし』
「探した」
『探さなくて、良かったのに、』
と、ようやく会社のすぐ横の道で座り込むシバを見つけた
「なんだよ、探すに決まってんだろ」
『……、くんな、』
「シバ、ここで何してた?」
『行くところ無くて会社きたけど、社員証持ってなくて入れなかった、』
「寒かったろ、おいで」
おいで、とシバの腕を引いて立たせて
抱きしめる
すっげえ、身体中冷えてんじゃねえか
『お前は、おれが、どうしようと関係ないんだろ、ほっとけば良かったじゃん』
「ほっとけるわけねえだろ。俺が悪いんだから」
『……中途半端に、おれのこと拾うな。いらないならおれを拾ったこの場所に捨てとけよ、』
と、言われてようやく気付いた
ここは俺が初めてシバと会った場所だった
「シバ、俺はお前を捨てねえ」
道端に落ちていたシバを初めて拾った場所、
あの時、偶然シバを拾って
成り行きで仕方なく家に置いていたけど
今は違う
成り行きでも、
仕方なくでもない、
シバを家に連れて帰りたいと思うのは俺の意思だ
「誰もお前の事要らねえなんて言ってねえだろ、今更お前の事捨てねえし」
『でも、』
と、シバは腕の中で鼻をすする
「シバ、ごめん。俺が悪かった」
『おれのこと、怒ったじゃん、関係ねえって、いったじゃん、』
「……だから……、言わせんな、」
『……な、にが?』
「お前が女と会ってたと勘違いして嫉妬したんだよ、……恥ずかしいこと、言わせんな」
『……言ってくんなきゃおれはわかんないもん』
と、ぐずぐずとシバが腕の中で泣き出して
『………おれのこと、いらなくねえの、』
「いる、すっげえ、いる」
よしよし、と背中を撫でると
じわじわ、と足の辺りに温もりが広がった
「ごめん、すっげえ、大人気なかった」
『……うん、やだった、』
「祈織、ごめん。家に帰ろ」
と、頭を撫でると
ぐす、と涙を拭って頷いたシバ
『…かえる、、……な、んか?ぬれて、』
と、そこでようやく自分の状況に気づいたのか
『あ、っ、おしっこ、でちゃっ、てる、』
と、顔を赤くしたシバ
今更だろ、そんなん
「シバ、帰ったら一緒に風呂入ろうな」
よいしょ、とびしょ濡れのシバを抱き上げると
『よごれるよ、』
と、もじりというシバ
「いいよ、もうかかってるし。シバと一緒に風呂入るし」
ちょっと待ってなー、と車のシートにタオルを敷いてシバを座らせた
「寒くなっちゃったよな、帰ったらココアも飲もうな、」
『…うん、』
よしよし、とシバの頭を撫で家に向かって車を発進させた
「シバに貰ったチョコも食わないとなー」
『え!あ、あれは、…あげてない、』
「なんで?カード入ってたぞ?」
『……くいたいなら、食っても、いいけど』
「じゃあ食う」
『……勝手にすれば、』
と、シバはふんっ、と窓の外を見た
『なあ、』
「なに、」
『キスも、したい』
「……シバ、煽んないで」
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