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呆然とする俺をしばらく眺めた泰雄さんは ふっと小さく笑うと ポンと俺の肩に手を置いた。 「俺が話したのは 涼くんに気づいて欲しくてね。 家族の中で口に出来ない事があるのは きっと辛いだろうと思うから。 少なくとも 俺たち夫婦は理解してるよ。 静香ちゃんに今まで一度だって 変な態度取られたりした事ないよね?」 新と同居した当時から今まで。 ・・無い。 何も変わらない。 ガミガミうるさくて。 世話焼きで イケメン好きで 新の事も カッコいいカッコいいって。 家に連れてきなさいって何度も言われた。 一緒に帰ってこいって姉ちゃんに何回も。 でも それっぽい事は一度も言われてない。 あの姉ちゃんが何も言わない。 それが。 理解。 ですか。。 有難いと思うべきなんだよな。 なんだろ。 でも。 何だか。 ちょっと。。 「・・ありま・せん。」 うん。と泰雄さんは微笑んだ。 「だからさ。たまには帰ってあげて。 喧嘩するほど仲が良いって言うけど 親子は喧嘩しようが 何しようが親子なんだから。」 そう言って ネクタイを俺の首に巻き きゅっと締めてくれる。 「結婚する事や孫を見せる事だけが親孝行じゃない。 帰って顔を見せる。時間を一緒に過ごす。 それが一番の親孝行だと思うけどな。」 ・・親孝行。 親不孝な俺が出来る 親孝行。 って事ですか。 何も言葉が出てこない。 「まあ。とはいえなかなか難しいだろうけど。 姉弟とはいえ異性だし。特殊なケースだしね。 静香ちゃんには今 話した事は黙っておくから 俺で良ければいつでも相談に乗るよ。 どんな家族でも はみ出し者はいるし そんなに気にする事じゃない。 俺ならわかってあげられると思うから。」 特殊なケース。 はみ出し者。 相談。 何の? って思う俺はやっぱり・・。 クズ確定。 か・・。 ただ コクンと頷く俺を見て 泰雄さんは満足げに ニコッと微笑むと 待ってるからね。とそう言って 手を振りながら 来た道を小走りに戻っていった。

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