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「せっかくだから頂こうか。」
煮物を皿に盛り 生ビールを注ぐ。
涼の目の前に出してもなかなか箸を取らない。
気分じゃないのか 何か拘っているのか・・。
仕方ないな。
手を伸ばし 大きなどんこを摘むと
はむっと齧り付いた。
じゅわっと甘辛い汁が口内に滲み出て旨い。
「どんこってさ。焼いてバター乗せて
上から醤油垂らすと旨いんだよね。
涼。食った事ある?」
ぽたりと汁が垂れそうな残りを口に放り込み
モグモグしながら 煮物の感想は言わずに
違う話を振る。
暫く沈黙が続き その質問には答えず
涼は俺へと暗い目を向けた。
「・・なんで。何があったか聞かないの。」
うーん。
そうだなぁ。。
「聞いて欲しかった?」
カウンターに肘をつき そう聞き返すと
涼はぐむっと唇を噛む。
ほらね。
「俺は涼が話したくなるまでいくらでも待つよ。
話したくないなら話さなくていい。
今がそのタイミングじゃないなら
無理に話して欲しくないしね。
いくら俺たちの間柄だって 涼の気持ち
全部理解なんてしてあげられないし
どうしたの? 俺で良ければ話聞くよ。なんて
言ってる自分に酔ってるだけで無責任じゃない。」
筍を口に入れ シャクシャクと音を立てると
涼は苦笑いを浮かべた。
もう。。なんだよ。。と呟く涼の
その大きな瞳に涙が滲んでいる。
「無責任・・。」
ポツリと復唱すると何だか腑に落ちたように
うんうん。と一人頷いた。
くしゅくしゅと目を擦る。
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