35 / 292
5
常連の岸さんに連れられて最初来た時は
可愛いな。とは思ったけど お仲間だとは
思わなかったし 真面目そうなリーマンって印象。
生ビールを飲みながら カウンターで
話している会話の内容も 岸さんがぶつぶつ
会社の文句を言っているのを苦笑い浮かべながら
うん。うん。って聞いてて。
ああ。この人。
岸さんの先輩なんだな。
という事は年上か。。でも全然そうは見えない。
ベビーフェイスでニコニコして。
こんな話ばっかり聞かされて
ストレス溜まらないのかな。って思っただけ。
でも。
たまたま涼達の隣に居た二人連れが
腹が減ったと言い出して。
メニューを見て よくわかりもせず
カリフラワーのフリットを頼んだ。
俺は両親がまともに傍に居た事がない。
二人とも仕事が第一。
じいちゃんばあちゃんに押しつけて
俺の前から居なくなった。
金だけは山程送ってきていたらしく
しょっちゅう アメリカの親戚の所にも遊びに
行っていたのもあり大学は向こうに行かせて貰って。
闇でバイトに入ったレストランが
ザクッとした仕事が多いお国柄の中では珍しく
キチンとした仕事をする店で。
色々教えて貰い 丸四年。
卒業したらビザ取って このまま
ここで料理人になるのもいいな。と思った矢先
じいちゃんとばあちゃんが交通事故で亡くなった。
で。二人がやっていたこの店をどうするかとなり
じゃあ。俺がやるかって日本に戻って資格取って。
でも。身が入らなかったんだよね。
形態がバーだから基本皆 酒を飲みに来る。
食事よりもツマミがメイン。
自分もバーは初めてだったし 酒をまともに
出せるようになるのをまず第一にしていたから
やっていくうちにつまらなくなって。
頼むのもビールにサワーにウィスキーの水割りが
殆どで ツマミも生ハム、チーズにミックスナッツ。
最初はアメリカ仕込みのTEXMEXなんて
いい売りだよな。とか思ってたのに
誰も食べないなら 適当でいいやって
なっちゃってた。
案の定 フリットを頼んだ客も
「何だよ。これ。フニャフニャで
全然カラッとしてねえじゃねえか。」
文句を言って 皿をずいっと横にずらす。
ああ。またかって思ったけど 腹も立たなかったし。
その時 ほぼ自分の目の前に皿をずらされ
いいのかな。と首を傾げた涼が
何の気無しにカリフラワーに手を伸ばし
ポイっと口に放り込んだ。
ともだちにシェアしよう!