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誠実

「じゃあ 今月はこれで。ありがとうございます!」 涼介は打ち合わせを終え 注文を端末に打ち込み そう言うと 親方の森保さんは おう。と返事を返した。 「涼介。昼飯食ってけよ。食ってないんだろ? ちょっと味見して欲しいのがあってな。」 そう言って カウンターにポンと箸を置いてくれる。 店は中休みで 従業員さん達は端のテーブルで 旨そうな賄いを食っていた。 森保さんの店は大繁盛の鳥料理屋さん。 ランチの親子丼は毎日行列だし 夜のコースは リーズナブルでこだわりの地鶏料理が楽しめる。 飲食店を回るエリア営業職。 キツイしメンタルやられると嫌がる人が多いけど あまりそんな風に思った事はない。 食品メーカーの業務としたら 量販店や企業を相手にする方が華々しいし 勿論売り上げも比じゃないけど でも 自分の身の丈に合っている気がするし。 色々なお店を知る事が出来て 料理人さんと身近に接する機会が多い そういう意味では仕事は楽しい。 ここは会社に入って営業に配属されて 四年目だったかな。新規で取った店。 っていっても ラッキーだっただけ なんですけどね。。。 たまたま近くを回っていて 間に合うかな。。と 昼営業時間にギリギリ入って。 ホントに飯を食いに来ただけで こういう 繁盛店はガッチリ他社が押さえてる筈だからな。 と いつも通り仕事抜きで親子丼を楽しんだ。 ただ そん時ちょっと気になって。 前に食った時より卵が薄い。 色味は全く変わらないけど 濃厚さが足りない。 いや。これでも充分旨いんだけど この店の味としては・・。 なんて思ってたら眉間に皺が寄っていたのか 「何か問題 ありましたか?」 森保さんにそう声をかけられた。 見ると 客は俺だけになっていて 慌てて あ。すいませんと頭を下げる。 「いえ。あの。俺 ここの親子丼大好きで。 夜も何度か来た事あるんですけど。」 そう言うと ええ。と森保さんは頷いた。 わあ。ちゃんと覚えてくれてんだってビックリして。 毎日毎晩 山程人が来る店なのに。 それだけで真摯な姿勢が透けて見える。 それもあって 勇気が湧いて つい口に出した。 「あの。違ったらすいません。 卵って変えましたか?」

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