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定期を出して電車に乗る。 仕事に行く訳でもなく普段着で電車ってのも 結構新鮮。 若い衆二人が揉めてるってどうせアイツらだよな。 行く前から ため息が出る。 三沢は橘課長に言われたからと仕方なく 暫く俺について一緒に店を回って。 最初のうちは 不貞腐れて渋々謝ってたけど 雨宮さんの所で盛大に怒鳴りあげられた。 「どんな職業でもな。他人の褌で飯食おうなんて奴は 絶対に成功しねえんだよっ。この馬鹿野郎が。 よく覚えとけ!次はねえぞ! 涼。おめえもだ!このガキちゃんと叩き直せ!」 ・・相当怖かったみたいで 三沢は俺の陰に隠れ ぶるぶる子犬の様に震えてた。 当たり前ですよ。 雨宮さんはパッと見 料理人ってより ヤ○ザにしか見えないんですから。 食いに来たお客さんの子供。泣き出すレベル。 三沢は営業に来た時も怒鳴られたみたいで それもあってか入口でビビッてなかなか 入らなかったしな。 でも。ちゃんと仕事をすれば認めてくれる。 力にもなってくれるし性根はすごくいい人だ。 そこから三沢も反省したのか どこ行っても 平に平に謝って。 休憩に入った喫茶店でぽつりぽつりと話し始めた。 「俺・・。前の会社で同じ事されたんです。 叶さんみたいな営業では無かったけど でも それなりにお客さんとは仲良くしようと思ってて コミュニケーションも取ってたつもりで。 だけど知らない間に違う奴が俺の客に営業かけて 仕事いくつも取られて。お店の人も同じ会社だから いいだろ。とか。全然悪びれる風も無くて・・ だから俺・・・。」 居づらくなって辞めて。 うちでおんなじ事したって訳か。 なかなか新規が取れなくて焦ってもいたらしい。 中途入社は先輩からのフォローも無い。 「まあ。あん時も言ったけど。俺は別にいいよ。 客お前が持ってったって。ただちゃんとその店との 信頼関係築いて その店の力になれて かつ売り上げが上げられるんだったらだけどな。」 そう言うと三沢は顔をしかめる。 「叶さんみたいに出来る訳無いじゃないですか。 俺。味音痴だし。何食ったって旨いと思うし・・。」 ああ。それか。 新に【涼の舌は金になる】って言われたけど もしかしたら人よりかは味覚が敏感なのかな。 考えた事も無かったけど。 逆に色々気にしすぎで ついいつも口出しちゃって やだなって思ってて。 でも。 「世の中の人ほとんどそうなんじゃねえの? でもその中でも気づく人は気づく。 お前だって母ちゃんが失敗したな。とか これなんで今日こんなにマズイんだろとか 思った経験あるだろ? そういうんだと思うけどな。 で。店はそれって一番影響受けるからさ。 まずいって思われたらもう客は二度と来ないし だから味を変えるってリスクを伴うんだよ。 俺たちが扱ってるのはその味にダイレクトに 反映しかねない商品なんだからさ。 まあ。俺みたいにやるのが正解だとは思わないし 営業ったって組織の一員なんだしな。 もっとうまく立ち回った方が三沢のこれからを 考えてみてもその方がいいとは思うけど。 俺の客に手を出すとやっぱり同じ対応求められるし そうじゃないお客さんだって他にいっぱいいるよ。」

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