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「帝王って知ってるかと聞かれました。」 お代わりのビールを注ぎ 空のジョッキと 入れ替える。 言い方に知っているのを感じたのか ああ。と苦笑いを浮かべ 服部さんは 頭を下げると はぁ。と息を吐き 諦めたように話し始めた。 「学生の頃 流されるようにそういう間柄になって。 気持ちが無かった訳じゃないんです。 でも なかなか自分で自分を認められなくて。 同性を好きになるとか 信じられなかった。 先行きにも不安を感じて。。同じ会社に入るって わかった時に別れようって言いました。 若かったし 大和の事は気の迷いだって 一生懸命そう思い込もうとして。。 向こうも了承しましたし。その程度だったんだなって わかる程遊び始めて。。。 自分が言い出したクセに内心傷ついて。 ・・勝手な話ですよね。。」 ぐむっと唇を噛み締める。 「一度。やり直したいって話をしようとした事が あったんです。別れても他に全然目が行かないし 誰とも付き合えない。好きになれない。 結局 大和しかいないのかなって思って。 だけど その時 大和が【帝王】って呼ばれてるのを 知りました。会社で話す訳には行かず 人伝に 大和がよく行くバーだって聞いて行ってみたら アンタも帝王の順番待ち?って。。」 ああ。 それはキツいかな。 ましてや元々ノンケには理解出来ないだろうしね。 「後悔しました。 なんであの時受け入れたのか。 最初まで遡って。ずっと。。 それが今更。一生一緒にとか。。」 服部さんはそう言って 肩を落とし 口を噤んだ。 ・・後悔。 そのワードがピリッと神経に障る。 悩む気持ちは分かる。 でも。だからって。。 「それで涼に話をしにきたんですか。 涼はどうなんだって。」 つい感情に引っ張られ声音がキツくなったのか 服部さんはぴくっと体を揺らした。 ああ。。落ち着かないと。 涼の事になると どうしても つい 冷静じゃいられなくなるからな。。 ただね。 涼だって苦しんでる。 表面的には上手くいって見えても 日々苦しんで。 誰にも打ち明けられずに。 親にも姉にも誰にも。 「わかると思うんですが。涼だって 何にも無い訳じゃないですよ。 カムしてないから 家族にずっと結婚しろって 煩く言われてるの 嘘ついて誤魔化してる。 あなたと同じ企業勤めでゲイバレする訳には いきませんよね。だから必死に隠しているし。 こういう形を選択していて 無条件で幸せなんて なかなかありませんからね。 俺にも申し訳ないって。 後ろめたい思いをずっと抱えていますし。」

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