152 / 292

13

誰かに聞いてもらいたいって感情はわかる。 それでなくても 人に簡単に打ち明けられるような 悩みじゃないしね。 でも。 ふう。と深呼吸をして 言葉を続けた。 「涼は貴方達のゴタゴタを知ってから ずっと心配しています。アイツは優しいから。 自分にも責任があるかもと気にしているんです。 でも。俺はそうは思わないし 逆にこれ以上 涼の負担を増やしたくない。 ましてや後悔なんて話。そんな話聞かせて で、涼になんて言って欲しいんですか?」 服部さんは顔をサッと青ざめる。 ああ・・と呟き 一気に平静を取り戻したらしい。 誰でも悩んでいると独りよがりで 相手への気遣いなんて無くなるものだから しょうがないけどね。 「それに 涼は愚痴は言えども 後悔しているのは 見た事がありません。だから そんな話 聞かされても なんて言ったらいいか 分からなくなって アイツが悩むだけだと思うので。 一緒にいる身としては止めてあげて欲しいですね。」 スパンとそう言い切ると 服部さんは え。。と顔を上げた。 「後悔・・してない・・?」 「ええ。まあ。確かに自分がゲイだと気づいた時から 母親をガッカリさせたくない。産まなきゃ良かったと 思われたくないとは思っていると思いますし きっと毎日生きづらいだろうとは思います。 でも。じゃあ ゲイだって事を。 俺とこうなった事を涼は絶対に後悔はしていません。 その証拠に毎日前向きに頑張っている。 愚痴りながら 悩みながら それでも この状況の中で幸せになろうと頑張っているんです。 あなたの目から見てもそうは思いませんか。」 服部さんはじっと俺を見つめ コクンと頷く。 そう。 涼は必死に前を向いている。 誰がどうとかじゃなくて。 自分の信じる自分のままで。。 「後悔して出す結論より。今 どうしたいのか。 服部さんがどうしたいのかじゃないでしょうか。 誰がどうとかじゃない。 貴方が今 どうしたいか。です。 それにはまず 話をするべきですね。 涼とではなく 相手とです。 どちらにしろ 容易な選択ではないでしょうが 涼はそれでもガンガン前に進んでいますけどね。 ただ それも簡単に出来る事じゃない。 ぶつぶつ文句言って 苦しんで。 それでもちゃんと前を向いている。 モデルケースのようにでも思っているのなら 冗談じゃない。ただ。腹を括り前を向く為でなら 涼に話を聞いても意味があるとは思いますが。」 ちょっと口出し過ぎたかな。と思いながらも 我慢出来ず そう話を終えると 服部さんは ぐむっと唇を噛み締める。 暫くの沈黙の後 わかりました。と頷き 柔らかい笑顔で微笑んだ。 「叶には。そういう話をする事にします。 すいませんでした。自分の事でいっぱいいっぱいで 叶の状況になんて全然頭が回らなくて。」 「・・いえ。出しゃばった真似をして こちらこそすいませんでした。」 本来なら部外者が口を出すべきじゃなかったのは 重々承知している。 身贔屓を承知で それでも俺は 涼にこれ以上 出口が見えない話なんかで悩んでは欲しくない。 後悔なんてしたって。 何も解決しないのだから。 頭を下げると 服部さんは慌てて いえいえ。と 被りを振った。 「ありがたかったです。叶に話す前に貴方と お話出来て良かった。。気づかせて頂いて。。 叶が前を向けているのは 貴方がいるからですね。 俺も逃げ出さずに キチンと話をすべきでした。 自分がどうしたいのか ちゃんと考えて。 大和ともう一度しっかり話し合ってから また出直してきます。」 その時 店のドアが開く。 「ただいまぁ。。疲れたぁ。。 あらたぁ・・小腹減ったよぉ・・なんかある? って。あれ? は・・服部?? お・お前。 なんでここに・・。」 慌てて甘えた声音を取り消すように あたふたする涼を眺め 服部さんとちらっと視線を 交わすと くすくすと笑い合った。

ともだちにシェアしよう!