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カウンターに肘をつき 「結婚して子供産んで。じゃあそれが幸せかって 言われたらわかんないしね。 勿論子供は可愛いし 何よりも大事。 でも仕事して家事やって 育児も。 親に手伝って貰ってるから楽だろうって 言われるけど 楽な訳無いしさ。 向こうの親とかうちの親とか煩わしい事も多いし でも旦那はわかってくんないとか。 なんであたしばっか我慢して。。とか思ったり。 ・・なかなか難しいよ。ね。」 遠くへと目をやり ふっと黙る。 上手くいってないのかな。 うちに来る主婦のお客さんも よくそんな愚痴を 言っているけど もうちょっとネタっぽく話してる。 声音に疲れが混じって聞こえた。 ・・俺の母親も。 少しはこうやって悩んだのかな。 仕事と俺を天秤にかけて。 ・・いや。 そんな筈がない。 沈黙に気づいたのか ああ。と静香さんは 焦ったように無理矢理笑みを浮かべる。 「ごめんごめん。何言ってんだろ。 ああ。でも 新くんが結婚する時は あのバカとっとと追い出していいからね。」 「あ。いえ。俺も結婚には興味無いんで。 両親が仕事ばかりで 何で俺を産んだんだろって ガキの頃ずっと思ってたんです。 だから。一生結婚はしないと思います。」 思考に引っ張られ つい 思うがままにそう口にすると ああ。そうなんだ。。と静香さんは 申し訳なさそうに 少し悲しげな表情で俺を見た。 「親が子供に与える影響ってあるよね。 そっかぁ。。それは寂しかっただろうね。 身につまされるわぁ。。まあ。だから 色々難しいんだけどね。」 うんうん。と頷く様子も涼にそっくり。 だからかな。 つい言わなくてもいい事を。。 後悔が顔に滲んだのを見てとったのか 静香さんは すっと背筋を伸ばす。 「ごめんね。変な話して。」 「・・いえ。俺もすいません。 あの。そういうつもりで話したんじゃないんで。 静香さんはいいお母さんだと思いますよ。 愛梨ちゃん。静香さんに似て 可愛いですし。」 気を遣わせたお詫びに 敢えて 明るい口調で 外した返答を返すと でしょ。とちらっと視線を向けられ くすくすと笑い合った。 切り替えの早さも似てるんだな。 この仕事をするようになり 主婦層とも 話をする機会が増えて 仕事と育児の両立の 難しさは 前より理解は出来るようになった。 自分の境遇がそうだからって 全てがそうじゃない。 悩みながらも 頑張っている静香さんは いい母親だよね。。 「それにしたって こんなイケメンがフリーなんて 世の中少子化が進む訳よねー。 涼だって見てくれだけはそんなに悪くないと 思うんだけどなぁ。」 静香さんはヤレヤレと大きなため息をついた。

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