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信じられないとでも言うように泰雄さんは 黙りこくる。 っていうか。 逆に何で? なんですよ。 相談なんかするつもりは無いけど じゃあ。何で。ってのは聞きたかった。 「姉ちゃんが気づいてるとか嘘ですよね。 あの人は気づいて黙ってられるような人じゃ ないんです。いくら考えても。 怒鳴られるかゲラゲラ笑われるか。そんな人なんで。 知ってて黙って同居とか絶対にする訳 ないんですよね。 それが理由だったら恩着せがましく最初から ずっと言われてると思うし・・・。 なんであんな事言ったんですか? 俺の味方のフリして何しようとしてたのかなって その方が気になってるんすけど。」 ドンッと物凄い音を立てて泰雄さんは テーブルを両拳で叩きつける。 「そんな訳無いんだっ!!」 何度も何度も叩きつけ ジロッと俺を睨みつけた。 「男同士で一生一緒に生きていく? 笑わせるな。そんな事許される筈が無いんだよっ! 世間体がある。人の目がある。 性癖で人生終わらせる気か。 そんな事許されない。そんな事・・。」 「だから泰雄さんは姉ちゃんと結婚したんですか。」 さっき新に言われて まさかなって思ったけど。 「泰雄さん。もしかして・・。」 「ああ。そうだよっ!!」 ドンっとまたテーブルを叩く。 「だけどな。そんな事許されない。 ちゃんとした仕事について結婚して子供作って。 必死に働いて 無理矢理同居させられて いい旦那のフリして。俺はここまでやってきたんだ。 あれは気の迷いだ。ちゃんと出来る。 自分にそう言い聞かして・・・。 なのに何だってんだ。好きでもない仕事 一生懸命やってきて 後輩が今度俺の上司になる。 幹部候補と言われた俺の上にあのバカが。」 腕を伸ばし 俺の襟首をぐいっと引き寄せた。

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