167 / 292
12
「涼。ホントに良かったの?」
新は運転しながらちらっと視線を送る。
助手席で窓に寄りかかり ぼーっと外を眺めている
涼介へとそう声をかけた。
襲われかかったのに。
まあ。涼の相手では無かったにしても
そういう事実があって。
とはいえ。お姉さんの旦那だからね。
どうするのかなとは思ったけど
涼は何もなかったかのように
お店の人には悪酔いしちゃったんでと
頭を下げ 泰雄さんをタクシーに押し込んだ。
「あー。うん。それよりムカつくのが
あの人が入れたボトル。すげえ高かったんだよ。
味もわかんないくらいに酔っぱらっててさぁ。
腹立ったから残り俺の名前でキープ
しといたから今度一緒に行こうぜ。」
な。と笑みを浮かべる。
「・・・無理しなくていいんだよ。
俺の前では。ショックだったでしょ。」
ショックじゃない訳がない。
話を聞いただけで腹が立ってくる。
自分の性癖 涼のせいにして まるで
俺は違うと証明する為だけに
実の姉と結婚したみたいに言われて。
「あー。うん。でもなあ。
わかんないけど。あの人ってもしかしたら
ホントに自分がそうかどうかわかってないかも。
俺の事押し倒した時 あんだけ酔っぱらってんのに
手も体も震えててさ。顔は引きつりまくりで
ああ。コイツ。出来ないんじゃねって思って。」
え。
「そうなの?」
コクンと涼は頷いた。
「ストレス溜めやすいタイプなんじゃねえの?
ほら。いるじゃん。期待に全て応えなきゃって
無駄に頑張っちゃうヤツ。
姉ちゃんの事押し倒したいとか 家庭教師やりながら
ずっと悶々と思ってて そっくりの俺の裸見たら
そうなのかもって勘違いとかってオチかなって
気がした。まあ。それでも充分本人にしたら
ショックだろうし 俺がそうだって気づいた辺りは
そっちの気があったのも事実かもしんないけどさ。」
そう言って肩を竦める。
「子供産む前の姉ちゃんより給料安いの気にしてる
って前聞いた事あるから出世もしたかったんだろうし
ホントは同居もしたくなかったんだろうなあ。
でも。いい夫でいる為に我慢してさ。
で。挙句の果てにセックスレス?
まあ。その捌け口俺。ってどういう事だろとは
思うけど。」
想像していなかった話にびっくりして言葉が出ない
俺を見て 涼は安心させるように小さく笑った。
「だから。そんな顔すんなよ。
お前。まだあの人 ぶち殺しそうな顔
してるんですから。怖いですよ~。
大丈夫。傷ついてもないしさ。
あの人の気持ちもわかるんだよ。
俺だって企業に勤めてるし。世間体がどう。
人の目がどう。気になりまくりで必死に
隠して生きてきてんだし。
気に入らないよなぁ。認めたくないに決まってる。」
ともだちにシェアしよう!