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「前に言ったでしょ。ガキの頃 ひとりぼっちだったって。」 新はそう言いながら 氷で冷やしていた 冷酒の瓶の蓋を開け 小さいグラスに注ぐ。 【月の露】 新が店に置く酒を探していた時に 知り合った蔵元さんから仕入れている お気に入りの日本酒。 出している数が少ないから幻の酒とも言われてる。 さらっとしてて後味がすっと消えて 酒が水になったような感覚がある 凄い飲みやすい 日本酒で。 口をつけると爽やかな甘さがふわっと広がった。 新が熱出した時だったっけ。 ガキの頃を思い出したのか珍しく取り乱し 不安を曝け出して。 その後 教えてくれたけど 両親は傍におらず 家政婦だけしかいない家に 小さい頃から一人で居て。 おじいさんに引き取って貰うまで ずっとひとりぼっちだったって聞いた。 「うん。」 可哀そうだなって思って。 だから家族に拘ってることも知ったし。 「その頃は家政婦が作った飯を一人で食べてて。 全然美味しくなかったのね。 料理が不味いんじゃなくて環境のせい。 じいちゃんもばあちゃんも店をやってたから 引き取って貰った後も飯は基本一人で食ってて。 その頃は全然料理にも食にも興味が無かったの。」 また俺の口に マグロの刺身を放り込み ニコッと笑みを浮かべた。 「でもアメリカに行って バイトしてて。 向こうの人ってオーバーだからさ。 旨いとリアクションが凄いんだよね。 一緒にご飯食べてる人と OH!って言い合って ニコニコ笑みを浮かべて。 その後も休みに旅行して知り合った人達に ご飯ご馳走になったりして。 一生懸命振舞ってくれてね。美味しいって言うと ものすごく喜んでくれて。 料理ってこんなに人を喜ばせる事が出来るんだな。 自分も喜ぶ事が出来るんだなって初めて知った。 でも。日本に帰ってきてその気持ち すっかり忘れちゃって。 やる気なくなってた時に涼に出会って思い出して。 あんなカッコ悪い思い 二度としたくない。 だから。今もこれから先も料理だけを 考えていたいんだよね。他で煩わされたくない。 俺はちゃんと修業した訳じゃないし 毎日が勉強だと思ってるから。 和食は店では出さないけど 涼が喜んでくれるから 覚えたいし その他もなんだって美味しいなら 全部作れるようになりたい。」

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