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「なんで。」
え。
なんでって・・。
「だから。俺。全然味とかわかんないし
いくら試食しても気の利いた事言えないし。
時間の無駄だと思って・・。」
叶さんは ふん。と鼻を鳴らし
椅子をぐるっと回して俺を見上げる。
「気の利いた事言って欲しいなんて
雨宮さん思ってないんじゃねえの。
美味しくないの一言でいいんだと思うけどな。
実際 まだ店から止めるって言われてないし
今日だってこれから来るように呼ばれてんだろ?」
そう。
それがどうしても解せない。
全然役にも立ってないし 怒鳴られるし
最終的には深くため息つかれて
「今日はもういいわ。」って・・・。
「あの・・それは叶さんの頼みだから
きっと気を遣っていただいて・・。」
自分なりの理由を思い浮かべてそう口にすると
叶さんはくすっと笑い ふるふると首を振った。
「雨宮さんがそんな気を遣う訳ねえだろ。
ダメならダメ。二度と面見せんな。で終わりだよ。
お前の教育がなってねえからだって
逆に俺が怒鳴られるんじゃないのかな。
だけど昨日帰りちょっと寄ってみたけど
何も言ってなかったぞ。雨宮さん。
この醤油難しいんだよ。バカ野郎って
醤油の文句はしこたま言われたけど。」
・・・そうなんだ。
でも・・・。
叶さんはじっと俺を見つめると
「無理にわかろうとしなくていいんじゃねえの。
お店に来る客全員が評論家って訳じゃ無いんだし。
お前と一緒で旨い。不味い。しかないよ普通。
だから雨宮さんもお前に来いって言ってんだと思うし
客目線の率直な意見ってのかな。
それが必要だって思ってるからだと思うけどな。
俺は。あと。まあそれに・・。」
机の上に置いてある貰い物のお菓子を掴んだ。
「例えばさ。俺。これ大好きなんだよ。
ガキの頃 親父が持って帰ってきてくれて
姉ちゃんと取り合いになってさぁ。。
だから今でもついつい取っておく癖がある。
味覚って自分の思い出だったり記憶だったりに
密接してるもんだと思うんだよな。
三沢は旨い物食った事無いからって言うけど
それでも今まで食ってきた物で
これ好き。とかこの味が好き。とかあるじゃん。
まずはそれに置き換えてどう思うか。
そっから始めてみればいいんじゃねえの?
諦めるのはまだ早いですよ〜。」
そう言って立ち上がり 俺にお菓子をはい。と渡すと
ひらひら手を振りながらカップを持って
給湯室へと行ってしまった・・・。
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