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思い出。 ・・思い出かぁ。。 焼鳥に思い出なんか・・。 雨宮さんの店が見えてくると 店先でつまらなそうに掃除をしている 若い従業員さんがちらっと俺へ視線を向け あからさまに呆れたように肩を竦めた。 「あんた。また来たんだ。 バカじゃないの。くだらない事に付き合ってさ。 営業の仕事ってそんなのしなくていいんだろ。 俺の仕事じゃねえって止めちゃえばいいのに。 はー。くだらない。タレなんてなんだって一緒だよ。 それをぐだぐだ理屈並べてさ。 無駄に休日出勤させられて 今だって中休みだってのに。。こっちもいい迷惑。」 そう吐き捨てる様に言って 店の中へ入って行く。 ・・くだらない。 その言い草に腹の中がザワッとした。 くだらなくなんかないだろ。 仮にも自分の働いている店の大将が あんだけ一生懸命やってるのに。 営業の仕事じゃないって確かにうちの 会社の人間だってそう思う奴がいっぱいいる。 あからさまに叶さんに向かって嫌味言う人もいるし バカにしてる人がいっぱいいるのも知ってる。 木崎といつもその話になるんだけど。 俺たちはああは出来ないけど 叶さんがやってる事は 絶対に間違ってなくて。 お店さんが喜んでくれて 考えたメニューが 人気になって うちの製品の評判も上がる。 一緒に付かせて貰って そういう場面に 沢山出会した。 最初あんな事したのに 自分の得意先の人達に ちゃんと俺を認めて貰えるように働きかけてくれて 今ではどこの店の方々も優しいし 迷惑をかけた銀次さんでさえ この間行った時 新作ラーメンを食べさせてくれた。 俺が適当に勧めた醤油使ってくれて。 値段をグッと手頃にして 飯物と一緒に食べると 丁度いい あっさりとした和風ラーメン。 涙が出る程嬉しくて。 それだって叶さんが銀次さんと考えて 俺は何もしてないのに 叶さんは 「最初に勧めたのは三沢だからな。」って 俺の売り上げにしてくれた。 今回だって。 雨宮さんは絶対に叶さんに一緒にやって貰いたい筈。 それでも俺を受け入れてくれてこうやって チャンスを与えてくれている。 くだらないなんて。 絶対に言わせたくない。 三沢は唇を噛みしめると よしっと拳を握りしめ 「お疲れ様です!」 大声でそう声をかけ 店内へと入って行った。

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